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労働組合はこれから何と闘うのか?~2023春闘で見えた課題と展望 part1


春闘――それは、日本の労働組合にとって切っても切り離せないイベントであり、日本の経済界における初春の風物詩とも呼べるものとなっている。
労働組合組織率が16.5%※となり、日本の働くすべての人々に直接的に波及するとは言い切れない現状においてなお、春闘という形式を維持し続けるのはなぜか。それは、春闘が単に労働条件の改善を目指す運動であるというだけでなく、終戦後、企業別に組織された成り立ちを持つ日本の企業内労働組合が、その形式を保ったまま一つの運動体として「連帯」するということに意義を見いだしているからだろう。
しかしその理念と実態は、緩やかに、確実に、乖離を始めている。
春闘というイベントに投射した連帯という理念自体を見直すべきときなのか、それとも連帯という理念を別の形で表現すべきときなのか。

「働く×マナビバ」では『j.uinonジャーナル』で好評だった特集「労働組合はこれから何と闘うのか?~2023春闘で見えた課題と展望」を前・中・後編の3篇に分けて掲載。連載を通じて、これからの春闘のあり方について切り込んでいく。

2023春闘が明かす展望

2023春闘は急激な物価高という背景を受けて、集中回答日を待たずして、駆け足で会社側からの満額回答が相次いだ。
また、ユニクロを運営するファーストリテイリングが正社員の年収を最大4割増加させると発表するなど、労働組合のない企業においても経営判断で大幅な賃上げを実行する、という事象が数多く見られた。

全国的に賃上げのムードが一気に加熱し、メディアも盛んに報道した2023春闘。
はたから見れば、主役の地位に労働組合はなく、政労使の「政」と「使」が主導権を握り、「労」がその動きに追随する、という構図のように映った。
もはや賃金を上げる「だけ」ならば、組合がなくても実現できる。そんな時代に突入したという現実を、私たちは受け止める必要がある。 
政府の意向や経営者の思惑によって賃上げが実現してしまう現状において、労働組合は「春闘」の存在意義をどこに見いだすべきなのだろうか。
それは、組み立てた要求根拠の背景にある「思想」をおのおのの組合が発信することにある。そう筆者は考えている。
企業には、これまで大切にしてきた創業の理念や会社の成長の方向性、どのような人材を重用し、どのような活躍を従業員に求めるのかといった、その企業なりの「文化」や「風土」、そして「戦略」がある。
それらは、美辞麗句で飾り立てた広報用のコーポレートメッセージや、世相を意識してつり上げられた賃上げ額や昇給率といった「数字」を眺めるだけでは決して見えてこないものだ。
 
おそらく経営者のむき出しの本音は、メディア向けに見せる顔とは大きく異なる姿だと思う。
だからこそ、労働組合が理想論を真正面に掲げ、本来のあるべき会社の姿、目指すべき状態、そこで働く従業員がどのように扱われるべきか、会社を取り巻く従業員の家族、取引先、地域社会などとの相互作用をどのようにデザインするか、という哲学を、働く人々の目線で堂々と語り、このような理論的枠組みがあってこそ、この要求であるのだ、という魅せるビジョンをしっかりと構築する必要があるのだ。
松下幸之助の言葉を借りれば、「社会の公器」としての企業のあるべき姿を提示し、経営に問いかける、ということだ。
組合がなくとも世相の後押しを受けて自動昇給しやすくなった時代において、わざわざ労働組合が要求根拠を組み立て、経営に「闘い」を挑むことの意味は、そのビジョンの厚みの差にあると筆者は感じている。

「ここで働く人間をどう扱うか」という問いは、企業経営において最も生々しい性質を持つ。
その答えはそれこそ企業によって千差万別であり、統一できるものでもないだろう。
これまでの統一闘争は「数字」を軸に展開されてきたが、これからは「ビジョン」を軸として多様な議論が展開されると考えられる。
それこそがわざわざ企業別労働組合、という形式をとった日本の労働界ならではの特色となるはずだ。

j.unionは、働く人の処遇はこうあるべきだ、という具体的な見解を述べる立場にはない。
しかし、それぞれの労働組合がどのように頭をひねり、どんな労使ビジョンを描いたか、ということを広く社会に知らしめることはできると思う。
その情報発信のお手伝いをすることで、間接的にではあるが「労働組合は働く人の処遇をどうあるべきと考え、どのようなことを経営に訴えているのか」という大枠のトレンドを緩やかに形成できるのではないかと考えている。
 
「労働組合はこれから何と闘うのか?~2023春闘で見えた課題と展望 part2」では、日本を代表する大手三労組の2023春闘の哲学をご紹介する。それぞれの闘いをお読みいただくことが、既に始まっている2024春闘のあり方について思いをはせるきっかけとなれば幸いである。

※厚生労働省「令和4年労働組合基礎調査」

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