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【インタビューVOL.03】原点は人づくり~組織づくりは若手リーダー育成から~/ゲスト:コープこうべユニオン 岡田 香織 氏

労働組合に関わるさまざまな人(労働組合役員やOG・OBなど)に「労働組合の新しい可能性」についてお話を伺うインタビューシリーズです。
 
三回目となる今回は、コープこうべユニオン 執行副委員長 岡田 香織 氏にインタビューさせていただきました。
コープこうべユニオンは、人が人らしく生きられる地域社会の実現のための事業・活動を支えるために人財育成に力を入れています。岡田氏は、パートタイマーの組合専従というキャリアをお持ちの女性リーダーです。今回はそんな岡田氏の組合活動への思い、若手リーダーの育成プログラムのことなど活動する中で見えてきた労働組合の今後について提言をいただきました。ぜひ岡田氏のご経験の中での気づきや発見、その中で生まれた組織や人への熱い思いを感じてください。

岡田 香織
コープこうべユニオン 執行副委員長
2012年から非専従の現場執行委員として組合活動へ参画。2016年から執行副委員長。現在に至るまでコープこうべの事業・活動を支えていく人財育成という位置づけで経営対策や組織活動を通して人づくりに尽力中。


――まずは、岡田さんが店舗のパートタイマーから組合役員になられた経緯についてお聞かせください。


岡田氏/元々コープこうべには月給者の労働組合とは別に定時職員協議会というパートタイマーだけの組織があり、その非専従の現場執行委員に2012年に就任したのが私の組合役員としてのスタートです。2015年に専従となり、2016年には月給者の労働組合と定時職員協議会が組織合併し、現在に至っています。
 コープこうべはパートタイマーの人数が圧倒的に多く、月給者だけでは労働組合として職員の過半数を維持できないという組織的な課題や、現場では同じ職場の中にパート、正職員、契約職員とさまざまな雇用形態の職員が一緒に働いているのに、組織が異なることで問題解決の道筋が別々になってしまうという課題もあり、やはり組織は一つであるべきとの考えのもと合併しました。その流れで2016年からコープこうべユニオンでパートの執行副委員長となりました。私は特に人に対する課題感が強く、今後のコープこうべの事業・活動を支えていく人財育成という位置づけで経営対策や組織活動を通して人づくりにアプローチしています。
 

――岡田さんが人財育成に力を入れるきっかけは。


岡田氏/私たちコープこうべは、社会運動家・賀川豊彦のもと営利目的の一般企業とは異なり、社会事業としての側面が大きい組織として誕生しています。そのことの認識が職員や地域の中でも薄まってきており、スーパーマーケット事業をやっている会社だと思われがちです。生協としての存在感が薄れつつあることに危機感を抱いています。それが仕事のやらされ感にもつながってしまっているというか。ですから、私たちのあるべき姿はそうじゃないんだということを一緒に考えていこうという取り組みを、労働組合はもっとやるべきだと考えていました。
 私たち組織の理念や役割を職員は知っていなければならないし、執行委員はその違いを土台に置いたうえで労使協議を行う必要があり、それが本当の意味での労使対等につながるのではないか。ただ現状はその点が弱いというのが私の中での課題感としてあります。いい組織は人がつくるもの。悪い組織も人がつくるもの。私たち労働組合が大切にしたい人財育成は、実務スキルだけではく、人間力や組織への共感力です。このような思いから私の人づくりのアプローチは始まりました。
 

――組織への熱い思いを感じます。


岡田氏/忘れられないエピソードがあります。組織合併してすぐの職場一斉訪問での出来事です。各職場をみんなで手分けして回り、組合としての要求内容や要求の根拠などを説明していたときに、ひとりの男性職員、もう定年前くらいの年齢の方でしたが、その方にものすごく叱られたんです。これまで労組が勝ち取ってこれなかったベースアップのこと、特に正職員は後回しにされがちなこと……。「労組がこういうふうにさせてきたんやろ!」と、みんなの前で袋叩きにされました(笑)。
 コープこうべの歴史的背景として、阪神淡路大震災以降、特に店舗事業は苦しい時期があり、早期退職を募るなどつらい過去があった中で活動してきたという経緯があるのですが、それまで私は定時職員協議会でパートの取り組みだけをしていたこともあり、当時の私は組織の歴史を何も知らず、何も答えられなかったのです。それが悔しくて悔しくて……。
 そこから労働組合の過去の議案書を全部読みました。これまでの組織の歴史や組織の理念を、自分の中に落とし込むことからスタートしたんです。
 
 当時、同じ専従の先輩に、「歴史を知ることは未来を創ることなんだよ」と言われたことが、とても印象に残っています。
 

――悔しさを糧に議案書を読み、組織の歴史や理念を深く理解したのですね。


岡田氏/この経験は、組織合併の直後にも役に立ちました。組織合併した当時は、現場では非常に戸惑いがありました。自分の上司に当たる職員と同じ組織になったことでパートさんは意見が言いづらくなり「私たちの声が通らなくなった」などのネガティブな声も届くようになってきたんです。そもそも定時職員協議会は労働組合が、よりパートタイマーの声を拾うべく立ち上げた組織です。このことをパートさんに伝え続けました。組織の歴史を知り、それを正しく伝えることで正職員とパートさんの距離を縮めていくための働きかけができたと思います。
 

――若手の人財育成にも力を入れていますね。


岡田氏/若いリーダーが職場で活動しづらいという点も課題でした。要因としては、今の管理職が労組活動や取り組み、組合そのものの重要性を理解していない。けれどそれはその方が管理職になる前に労働組合が人財育成をしてこなかったから。結局自分たちのところに返ってくるわけです。今の管理職を悪く言うことは、自分たちが人財育成を怠っていたブーメランとして返ってくるということに、この何年間かでたどり着きました。若手から労組活動に関わり、積極的に「生協人」を創っていかないと、労組のことを何も知らない人がそのまま管理職になっても、いい組織になるわけがありません。

――「生協人」を創る。そのために実施した人財育成について教えてください。


岡田氏/j.unionさんと人材育成について対話していたときに若手人材育成の「夢創塾(※)」の実現に至りました。「生協人」は生協運動推進者であり、従業員ではないという考え方を職員が理解しなければなりません。店舗での作業もトラックで荷物を運ぶのも社会貢献の一環。生協を利用することで地域の組合員さんの生活が守られるという意識を持って仕事に取り組んでほしいんです。そんな生協人を増やすための人財育成の一つが「夢創塾」です。塾長は委員長、副塾長は書記長、私は事務局に徹しています。
 各職場に1人ずついるブランチリーダーを集めた会議で「コープこうべの中でリーダーシップを発揮できる人財を創っていく必要性」「重要ポストに就く職員の人間力を高めていく必要性」を説明し、各ブランチリーダーが次にバトンを渡したい若手を、「夢創塾」の塾生として推薦してもらいました。
 
※「夢創塾」:生協運動、労働運動を切り拓き、次代のリーダーとしてコープこうべの未来と夢を描ける人財の育成を目指す。2023年4月~8月の期間で全3回の合宿形式で実施。
 

「夢創塾」にて、若手メンバーに思いを話す岡田氏

――第1期塾生はどんなメンバーが集まったのか、また具体的なカリキュラムもご紹介くださいますか。


岡田氏/入社2、3年目の20代~30代(中途採用含む)の若手たちです。コロナ禍での入社だったため、これまでの研修はオンラインばかりという状況なので、同期とのつながりも薄く、職場での先輩後輩の関係性もつくりにくかった世代なので、同世代のネットワークをつくってあげたかったというのもあります。
 カリキュラムは1泊2日の合宿形式で全3回。1回目の合宿は、生協運動、労働運動の歴史、コープこうべ誕生の経緯やコープこうべユニオンが大切にしているものについて講義形式で学んだ後、労使間協定などの輪読を行い、グループセッションし発表。2回目の1日目は、j.unionさんから講師を招き、ひたすらリーダーシップ研修です。
 

――最初はリーダーシップのあるべき姿をレクチャーしたほうがいいんじゃないかという話も出ていましたが、自分なりのリーダーシップとは何かを考える場をつくったほうがいいということになったんですよね。


岡田氏/型にはめるのではなく自分なら何ができるか、自分ならどういうことができるかを自分で考えて行動できる人になってほしいという思いからです。うれしかったのは塾生たちが「こういうことがリーダーシップだったんだ」という気づきを得て、それをきちんと伝えられるようになったこと。翌日は賀川記念館を訪問し、賀川豊彦についての講義を受け、実際に賀川が活動していた拠点を説明してもらいながら巡る賀川ウォークを行いました。
 3回目の1日目は国会議事堂見学です。UAゼンセンの組織内議員の方に来ていただき、産別労働組合の大切さや政治に関わることの大切さを話していただきました。2日目は卒塾式で卒塾論文を発表してもらいました。
 毎回懇親会もやりました。塾生同士、塾生と委員長との距離が一気に縮まりましたね。

「夢創塾」に参加したコープこうべの若手メンバーと岡田氏

――手応えはいかかでしたか。


岡田氏/タイミングよく卒塾生5人中2人がチーフに昇格したんですよ。塾で得たものをすぐにアウトプットできる立場になってくれたのはうれしい限りです。2期生募集に向けて1期生に再集合してもらったのですが、みんな仕事が早いです。想像以上に成長してくれました。
 私自身、UAゼンセンの「唯一塾」に1期生として参加した経験があるのですが、ある参加者の「長期的視点で政策をつくって日々地道に活動していく。10年後に誰かが認めてくれたらそれでええねん。政策ってそういうものやん」という言葉がスッと腹に落ちてきて。いまだにLINEグループでやりとりするほど1期生の絆は強いのですが、「夢創塾」の塾生にもそんな経験や仲間の関係を持ってほしいという思いもあったんですよ。
 

――執行部に関しては、専従者と非専従者が視座を合わせ、執行部としてコープこうべ全体の視点が持てるような教育や、「生協人」も育成につながる経営協議会実現に向けた研修を、ということで、j.unionもお手伝いさせていただきました。


岡田氏/職場でリーダーシップを発揮できるリーダーを育てていくには、執行委員がサポートに徹することが必要です。うちの執行委員はみなさん思いが強いあまり、ついつい前に出過ぎる時がある。だから「リーダーの背中を押してあげてください。リーダーの前に出ないでください。やるのはリーダーなんです!」と、具体的にリーダーがアクションを起こすまでしっかりサポートを続けることを期初の目標に掲げて、段階ごとに研修に入っていただきました。
 
◇ ◇ ◇ ◇ ◇

ご自身のキャリアや、組織に対する熱い思いを語ってくれました!


――これまで岡田さんが経験されてきた中で感じる労働組合の新たな可能性、役割、あるべき姿などをお聞かせ願えますか。


岡田氏/やはり、人づくりだと思います。日本は企業別労働組合が多いので、企業人をどうつくっていくか。コープこうべでいうとそれが「生協人」ということです。各会社には企業理念や社長が大切にしている思いがあると思いますが、それらは決して会社から一方的に伝えられるものではありません。労働組合はそれをしっかり受け取って一人一人の社員により深く浸透させていくのが役割。ですから人づくりは労使でやっていかなければいけないし、各事業の戦略や人事戦略もそうだと思います。

 コープが手掛ける事業は、社会貢献という大きな名目の中で事業として成り立っていないといけない。「これからの店舗はどうあるべきなんだろう」「今の宅配事業はこのままでいいのか」「どこでも安心安全なものが手に入る今の時代、コープの強みって何なんだろう」といったことを経営対策でやりながら、まず職員が理念や歴史を知らなければいけないし、そういう人財をつくらなければと主張するのであれば、まず私たち執行部がそれを知っていなければなりません。
 

――その役割を果たすために、組合役員として求められる能力やマインドとはどんなものでしょう。


岡田氏/歴史を正しく知らなければスタートラインに立てません。そのことの重要性を理解しておかなければならないと思います。そのうえでブレずに信念を貫ける強さも不可欠です。どんなに社会情勢が変わっても、コロナ禍でつながりが薄れたと言われても、どういう人づくりをするのかという根本的な観点はきっと変わらないと思うので、その信念を見失わず走り続けられる強さですね。そして学ぶ心を忘れてはいけないと思います。

 どうしても今の課題に目を奪われ、企画にばかり意識が向いてしまい、「何で若手を育てなあかんの?」「何で若手が来ないんやろ?」「若手が興味を示さないのは何で?」といったそもそもの部分が見えなくなりがちです。俯瞰的に物事を捉え、本当の意味での労使対等をいかに実現するかを常に考えながら、組合役員は発信していかなければならないのではないでしょうか。
 
 

コープこうべユニオンの組合活動をご支援させていただいているj.unionメンバー(山崎 啓祐:写真左)と 記念撮影。 インタビューから岡田さんの素敵なエネルギーを感じました。大切な視点をお話しくださりありがとうございました!


 

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