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キャリア共助と労働組合(後編)

※過去のコラムの転載です。

キャリア共助の必然性

前編に続いて、リクルートワークス研究所が報告した「『つながり』のキャリア論」(以降、当論)の内容を交えながら、キャリア共助と労働組合について述べることといたします。

前編で記載したように日本の労働者は自己決定感が低調な傾向にあります。このことは、自助を行うための土壌が乏しい状況だと言えます。では、国からの公助はどのような状況でしょうか?少子高齢化による人口減少が進む日本では、公的財源を期待することが難しいでしょう。また、会社もキャリア自律を個人に委ねる傾向が進んでいます。つまり、国や会社に依拠せずにキャリア自律を高めざるを得ないことになります。このままではキャリアの孤立が強まると当論では述べています。

一方で、調査②では、キャリアの共助・公助はキャリア促進にポジティブな影響を及ぼすことが分かっています。自助だけでは難しく、公助は今後機能しにくい状況があることを考えると、共助によるキャリア自律が自ずと必要になるわけです。

キャリア共助は個人のキャリアを支え合うものなので、友人間、同僚といった非組織間での共助もあれば、労働組合やNPOのような組織間での共助もありうることになります。また、共助を注目する理由として、当論では次の様に述べています。

  1. 企業がキャリアを後押しするには限界が来ている

  2. キャリア孤立がさらに強まりそうな現状

  3. 共助が自らのキャリアを主体的に築く姿勢と結びついていることが調査結果から明らかになった

  4. 海外では多様なキャリアの共助が存在し、かつ機能している

労働組合によるキャリア共助事例

当論では、キャリア共助の例として6つの事例を挙げていますが、本稿は労働組合に関わる方が読まれていることを前提としています。よって、以降は労働組合に関して述べたいと思います。

当論では、労働組合による共助の例として、UAゼンセン様、損保労連様、電機連合様の例が挙がっています。まず、UAゼンセン様では「就労マッチング」という取り組みを展開しています。また、2020年9月に労働組合として初めて産業雇用安定センターと提携し、2021年1月末時点で約1000名の出向・転職を実現しています。損保労連様では、単組役員マスターコースの一環で「自律的キャリア形成」という研修を実施しています。電機連合様では、組合員の職業能力開発を目的としたキャリアデザインの電話相談や採用情報の提供、キャリア開発推進者の育成を始めました。ただし、UAゼンセンの就労マッチングも電機連合のキャリアデザイン相談も、利用者は決して多くないようです。

当論には記載されていませんが。三井物産労働組合(MPU)様では、専従全員がキャリアコンサルタントの資格を取得し、組合員の相談対応を行っています。と同時に、会社に対して社員一人一人の適性に合わせたキャリアパスの導入を会社に働きかけています。MPU様は弊社の現場地フォーラムという企画で前委員長にご登壇いただいたことがあります。多くの組合役員様にご参加いただき、闊達な意見交換があり、関心の強さがうかがえました。見方を変えれば、他の組合様でもどのように展開すればいいかを模索していることの証左であるとも言えます。

また、調査①では、労働組合は働きやすい環境をつくるのには役立っているものの、個人の多様なキャリア選択を支えているとは言えないことが、諸外国との比較によって分かりました。前章で記載した課題に含め、労働組合の対応不足といった課題も浮き彫りになっています。

調査結果から見るキャリア自律

弊社で行った調査では、以下のような因果関係でキャリア自律に対して影響を与えることが分かりました。

上司とのコミュニケーション ⇒ 職場の人間関係 ⇒ キャリア自律行動・キャリア自律心理
また、堀内・岡田 (2009)③からは、以下のような因果関係が見出されました。
キャリア自律心理 ⇒ キャリア自律行動 ⇒ キャリア充実感 ⇒ 組織コミットメント
上記の結果から、職場でのコミュニケーションによってキャリア自律は促進され、組織コミットメントを高めることが推察されます(飽くまでも別々の調査事例に基づいた推察なので、改めて分析を行う必要はありますが)。一方で、キャリア自律の促進は退職を促す、いわゆる寝た子を起こす可能性があるという論調をよく耳にします。上記の論文によれば、むしろのその逆であることが分かります。もちろん、全員の組織コミットメントが高まるわけではなく、実際に辞めてしまう人もいるでしょう。では、そのような組織は組合員が勤め続けたい会社になるような対応を労使で行っているでしょうか?また、退職者が出るからということでキャリア自律を促す必要がないことになるのでしょうか?キャリア自律が全ての問題を解決するわけではありませんが、必要性が高まっている以上、前向きにとらえ、キャリア自律を促進する必要があると思います。