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<シリーズ1>はじめに

労働界におけるクミジョ(女性役員を中心とした労働界の女性)の抱えるジェンダー問題とその背後にある要因を探るとともに、解決の道をシリーズ「労働組合のなかの男と女」にて綴っていきます。


本稿第1部の目的は、労働組合自身が真に「男女共同参画」の組織、すなわち、クミジョ(女性役員を中心とした労働界の女性)の人権を尊重し、対等な構成員として、自らの意思によって、あらゆる分野における活動にクミジョの参画機会が確保され、均等に利益を享受することができる組織になるための活動理論の構築をめざすものです。

あわせて、労働組合をクミジョ・クミダンが共に責任を担うことができる組織にしていくための、手がかりを得ることを目的にしたものです。

ではなぜ、労働組合をジェンダー平等な組織にしていくことが必要なのか。

それは、1989年に結成された連合が、「連合の進路」の中で「連合の役割と責任」として、「われわれは、社会のあらゆる分野での男女平等の実現、働く女性の雇用・労働条件の向上、母性保障の充実、社会環境の改善に取り組む。このため労働組合への女性の参加をはじめ、あらゆる分野への女性の参加を進め、男女平等社会を目指した活動を進める」と力強く宣言した(本田2021:46)にもかかわらず、その後の取り組み経緯を見ると―厚労省調査「平成30年労働組合活動等に関する調査」によると、多岐にわたる労働組合の活動態勢の中で「男女の均等取扱い」は3.6%と、経営参加、組合員サービス、政治・経済・社会活動、その他の重点事項を含めた全21項目中最下位である(本田2022:42)、という低迷ぶりであるからです。

そして、今日もなお、国連の女性差別撤廃委員会による対日勧告(2024年10月29日)にて、次のような指摘がされる現状(社会、企業、職場)にあり、その解消の主体となるべき労働組合内部においてもジェンダー不平等が観察されるからです。

39.委員会は、次の点を懸念して留意する。
(a) 依然として大きな男女賃金格差。これは、同一価値労働同一賃金の原則の不十分な施行と労働市場における水平的・垂直的分離の継続に一部起因している。
(b) 管理職に就く女性の割合はわずか15%で、締約国が設定した30%の目標を大きく下回っている。
(c) 2トラック雇用の管理スタイルの名残により、女性は低賃金の事務職、パートタイムまたは低賃金の仕事に集中し、家族責任により非公式経済を含む低賃金の仕事に従事し、年金給付に影響を及ぼしているほか、出産や出産(原文のまま)を理由とした差別が絶えず報告されている。
(d) 2019年に制定された締約国の「パワー ハラスメント」規制は、ジェンダーと権力構造に十分に対処していない。
(e) 女性、先住民女性、部落女性、障がい者女性、移民女性、レズビアン、バイセクシャル、トランスジェンダー、インターセックスの女性などのグループが経験する職場での差別や嫌がらせ。
(f) 間接差別に関する男女雇用機会均等法の改正における差別禁止の根拠は、体重、身長、移動能力の要件に限定されており、年齢、妊娠、育児、都市部/農村部の人口など、国際的に認められているその他の根拠は除外されている。
(g) 締約国の人工知能ガイドラインは、採用アルゴリズムにおけるジェンダーバイアスの問題に明示的に対処しておらず、人工知能の指導的地位に女性が不足している。
 

40.持続可能な開発目標のターゲット8.5に従い、すべての女性と男性の完全かつ生産的な雇用とディーセント・ワークの達成について、委員会は締約国に対し、次のことを勧告する。
(a) STEM、特に技術分野、医療および法律専門職など、女性が最も過小評価されている分野で、上級職を含む公式雇用における女性の参加を増やすために、一時的な特別措置、ジェンダー偏向研修、多様性研修などの的を絞った措置を講じる。
(b) 意思決定システムにおける女性の平等かつ包括的な参加に関する委員会の一般勧告第40号(2024年)に沿って、管理職における女性の目標を30%から男女同数に引き上げ、上級職に女性をより多く雇用するインセンティブを生み出す。
(c) 同一価値労働同一賃金の原則を効果的に施行し、次の方法で男女間の賃金格差を縮小し、最終的には解消する。
(i) 定期的な労働検査を実施する。
(ii) 差別のない、主観的でない職務分類および評価方法を適用する。
(iii) 定期的な賃金調査を実施する。大企業に男女賃金格差を開示する義務を中規模および小規模の職場にまで拡大する。
(iv) 男女賃金格差の背後にある理由をよりよく理解し、適切な是正措置を講じることを目的として、雇用主に男女賃金格差データに関する説明文を公表するよう奨励する。
(d) 雇用における男女格差を特定するための措置を講じる。これには、大企業に男女賃金格差を開示する義務を、女性が多く働く中規模および小規模の職場にまで拡大することが含まれる。
(e) 企業が女性にフルタイムおよび正規雇用へのアクセスの機会をより多く提供し、大多数が女性である非正規労働者に給付を拡大することにより、労働市場における女性の状況を監視し、正規雇用されている女性の数を増やす。
(f) 研修プログラムおよび職場の方針において、権力の表れとして女性に対する男性の権威に対処する。
(g) 職場での差別、性差別、嫌がらせにつながる有害な性別および社会規範に対処する。
(h) 裁判官に、雇用差別および雇用における性差別に異議を唱える際の条約および CEDAW の使用に関する研修を提供する。
(i) 妊娠、育児、外見上の偏見、都市部/農村部、年齢の区別など、間接差別の禁止根拠のより広範な範囲を考慮に入れるよう、雇用機会均等法を改正する。
(j) 大規模言語モデルおよび ML がデータでトレーニングされる際、開発の初期段階から女性技術者が偏見緩和に取り組み、トレーニング データを入力するようにする。
(k) 国際労働機関の 2011 年家事労働者条約 (第 189 号) を批准する。
(https://note.com/ringfrei/n/n121a1f0b1197より)

以上の指摘は、日本においては、男女の賃金格差は依然として大きく、女性のパートタイムや低賃金労働の割合が高いこと。出産や育児で職務上差別を受けていることや、女性の家事労働の負担が多いこと。さらには、女性の雇用環境の整備や間接差別を広く考慮することや、中小企業にも男女賃金格差の公表義務を広げることを求めたものと言われています。

はたして、これらの留意や勧告を、自分たちに対しても出されたものと、真摯に受け止めている日本の労働組合はどれだけいることでしょうか。おそらく、勧告が出されたことすら知らない組合役員が大半ではないでしょうか。

一方、労働組合運動の再活性化(組織率の低下と組合員の組合離れ防止)を考えるにあたり、かつて二村(1994)が、一般に社会運動―労働組合運動はもちろんそのひとつ―の最大の動因は、差別に対する怒りである。その意味で、長年の鬱憤を晴らしてしまい、全員がサラリーマン化した正規従業員中心の組合が、企業主義から脱却することは難しい。今後、かりに労働組合運動が再活性化することがあるとすれば、それは現在の企業社会では「一人前の構成員」として認知されていない層=女性従業員が、「私たちも人並みに」と要求する時だろう(p.72)との鋭い洞察を示しています。

しかし、そのことについて、禹・沼尻(2024)が、「だが、現在の『パート』は、『私たちも人並みに』と要求するための正当化論理をまだ十分に備えていない。ゆえに、運動の『再活性化』がいまだ実現できずにいる」と指摘し、「労働組合運動の再活性化」が起こるには、「現在の女性たちが、『私たちも人並みに』と要求するための正当化論理」を持てるかどうかであろう(p.12)、と主張しています。

この主張に応えるべく、本稿は、クミジョ・クミダン・パートナーシップのための正当化論理の構築を目指すものです。

そのためには、最初に性別による不平等や不均衡は、社会的・組織的な構造に起因するという理解が求められ、その構造を打破して初めて、性別にかかわりなく平等に機会を与えられること、すなわち、「ジェンダー平等」が実現する、ということを理解する必要があります。

一般的に、企業内におけるジェンダー格差を取り上げる場合、企業内にある7つの格差、①就業率、②統計的差別、③雇用の二極化―正規雇用と非正規雇用、④長時間労働、⑤管理職比率、⑥賃金のジェンダー格差、⑦育児休業・介護休業取得率(鈴木2017:72-75)が取り上げられ、そこに示されたジェンダー格差をどう解消するのか、さらには、格差是正のために、どのような制度を設計・改善するべきなのかという議論が求められる、とされています。

しかし、めでたく立派な制度を確立しても、現実は、「仏作って、魂いれず」の状態になっていて、それらの7つの課題解決に設定した数値目標の達成が、なかなか実現しないという実態にもあります。

その原因ひとつに、クミジョ自身が、日本における男女別賃金格差や、女性の圧倒的多数が非正規雇用に追いやられている現実を、ジェンダー問題だと思っていないからでしょう。それもあって、コース別雇用管理が男女平等な雇用制度であると思い込んでいる現実が散見されます。このような現実が頑健に存在するのは、日本のクミジョが欧米諸国に比べて、男性優位のジェンダー規範を強く内面化しているからでしょう。だから、いまだ日本国は、2024年の国連のジェンダーギャップ指数において、146カ国中118位という現状に甘んじている理由といえるでしょう

そこで、本稿Ⅰ部では、制度に「魂を入れる」ために、ジェンダーギャップをもたらすことはあれ、解消するなど、とてもできるような組織とは思えない労働組合という組織の、現実的・構造的問題に切り込んでいくことにしたいと思っています。なぜなら、労働組合という組織は、企業よりもジェンダーギャップが散見され、よくもまあ、活動方針に「男女共同参画」などとの項目を掲げたものだと、言われかねない組織であるからです。

したがって、本稿第Ⅰ部を読まれる男性組合役員の方には、耳の痛い話になるかと思いますが、本稿を読まんとするクミダンは、とても誠実かつ良心的な方々で、問題意識を持たれてのことだと思いますので、そのことに感謝しつつ、忍耐力をもって話を聞いていただけることを、最初にお願いして、話を始めてまいりたいと思います。