このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利顧問が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。
産業革命は社会に良いことばかりをもたらしたわけではない。もちろん産業の発展によってそれぞれの国の労働者に仕事を与え、生活を豊かにし、新たな国民経済の礎を築いた。今日の私たちの社会のスタートであった。
しかし、その一方で、産業革命はさまざまな弊害を国民生活にもたらした。この場合の国民生活とは、産業に働く労働者への影響に始まり、国の礎である国民全体への影響、そして労働者を雇用する経営者の意識と行動などをいうが、今では想像もできないほどの惨憺たる社会状況を作り出していた。
前号でも触れたように、その実相は想像を超えている。
さらに同書は次の点を強調する。
以上の指摘は時代の進歩、歴史の進んで行く方向の原理みたいなものを示唆している。その中で最も重要なことは、社会が混乱し、国民が貧しく困窮していると、その原因は社会システムのせいとするマルクス主義のような革命思想が蔓延するようになることだ。
マルクスが活躍する時代も産業革命によってスタートする。それは国民生活の困窮や混乱が背景にあって生まれたのである。以後、歴史を見れば、マルクス主義が影響力を発揮するのが社会の混乱期であったことが証明している。社会が安定期にはその影響力を著しく失うのである。戦後の日本を見ても、敗戦後の混乱期に栄えたものの、国民生活が安定している時期には勢力は落ち込んでいくのである。
その原理を今の日本にあてはめてみると、まったくその通りに動いていることがわかる。例えば、近年でいえば終戦直後の貧しく混乱した社会では、マルクス主義は多くの支持を得てそれらを掲げる政党が勢力を伸ばした。やがて日本経済が高度成長を成し遂げ国民生活が豊かになると、その影響力は急速に失われる。
しかし、そんな中でも、業績の悪化から「派遣切り」と称される派遣労働者の解雇が増えると、その影響力は息を吹き返す。こうして労働者の困窮や社会の混乱が始まればマルクス主義の影響力は力を増していく歴史は繰り返されていく。
近代資本主義の誕生にまつわる苦難の時期は日本を例外とはしない。女工哀史と並んで労働環境の悲惨さの代表に挙げられるのが「高島炭鉱」、通称「軍艦島」の労働争議である。
こうした悲惨な歴史を持っていながら、今や観光の名所としか宣伝されない軍艦島。私たち労働組合に関係する者は、日本初の労働争議が発生した場所として改めて認識を新たにすると共に、それだけにとどまらず、労働組合は常に、社会問題と強いかかわりを持っていることを自覚していかなければならない。