職場は誰のもの?~組合員が職場運営に参加することの本質~①
『j.unionジャーナル vol.312』では、労使共同で成果を上げた住友ゴム労働組合の職場改善運動に焦点を当て、労働組合が「職場」と向き合うことの意義について再考します。
職場改善活動取り組みの背景と成果
アンケートで直視した現場の厳しい実態
住友ゴム労働組合名古屋工場支部の神谷書記長は、アンケート結果を眺めて一人、頭を悩ませていた。組合で全組合員を対象に実施した「2021アンケート」に寄せられた回答が、非常に厳しい内容のものであったためである。
まず、「時間的なゆとりの確保のために何に注力すべきか」という設問に対し、約半数の組合員が「人員不足の解消」と回答していた。さらに、人員不足の原因となる「中途退職者を減らすために必要な施策」については「職場環境改善(人間関係)」という回答が多く寄せられたのだ。
険悪な職場内の人間関係が中途退職者をやみくもに発生させ、さらに人員が不足して人間関係を険悪にする、という負のスパイラルに陥っている。神谷書記長はアンケート結果をそのように解析し、この問題の解消に労働組合が積極的に介入しなければならないと考えた。
神谷書記長は、特に人間関係が悪化していると思われる部署に対し、「職場の人間関係を改善する活動」の実施を決断した。対象部署選定の指標には「時間外労働の平均」「退職比率」「過去アンケート結果(上司への相談ができるか)」のデータを用い、これらの数値が悪かった製造第一課第二材料班を対象部署とした。
まずは現状を詳細に把握するため、神谷書記長は班員24名全員に対し前回よりも詳細なアンケートを実施した。アンケートの設問設計にあたっては、職場環境(人間関係)を悪化させる要因を「コミュニケーション」「モラル・マナー」「労働時間」「ハラスメント」の4つに定義し、それぞれの分野に対する設問を用意した。アンケート結果として、「コミュニケーション」「モラル・マナー」分野については、すべての設問でネガティブ意見が過半数だった。「モラル・マナー」分野の「悪口/陰口を耳にする」という設問に至っては91・7%に達していた。次に、労働時間」「ハラスメント」分野に関してはポジティブな意見が過半数となる設問もあったが、「突発の時間外労働が多い」「言葉遣いが悪い/厳しい人がいる」といった問題があることも判明した。
続いて、年齢や立場のバランスを配慮しながら16名を選抜し、個別面談を実施した。面談から①「コミュニケーション」「モラル・マナー」「ハラスメント」については「職場の規律が乱れている」、②「労働時間」については「勤務計画/早出残業の指示のルールがない」といった点に問題を集約できると判断した。なお、この面談時点で16名中10名が退職意向であるという事実も、神谷書記長に衝撃を与えた。残された時間はそう多くなかった。
対策チームの立ち上げ
神谷書記長は執行部内で対策を議論し、この二つの問題に対してそれぞれ対策チームを立ち上げることを決定した。一つは「Vision浸透Team」、もう一つは「勤務表改善T e a m 」である。「Vision浸透Team」には「職場の規律の乱れ」に対応すべく、理想の職場像(vision)をみんなに認識してもらうための施策を検討、実施するというミッションを、「勤務表改善Team」には「勤務計画/早出残業の指示のルールがない」という問題を解消する施策を検討、実施するというミッションを与えた。どちらのチームも執行部主導ではなく、職場メンバーが自分たちで職場を立て直す、「職場自治」活動として進めることとした。
「Vision浸透」に関しては、班員全員で行動目標をつくるところから開始した。行動目標については、生産活動や部下の教育をしていく場面で都度確認をし、あるべき姿を意識しながら業務遂行をしてもらうよう声掛けを続けた。さらに毎月アンケートを取り、行動目標への意識づけが効果を発揮しているかどうかを常に確認した。「勤務表改善」については、1カ月のシフト表が開示されるタイミングが遅いという不満があったため、仕組みやフォーマットを変えて、必ず前月の期日までに出せるよう取り組みを進めた。
これらの取り組みについては、労働組合単独で完遂したわけはない。組合が抱いていた危機感と職場改善の必要性については会社側も同様に認識していた。会社側も組合側からの問題提起に応じ、通常の労使関係を超えて情報共有し、人事面も含めた協力体制を敷いた。
以降は、職場改善活動の当事者に対するインタビューの収録である。それぞれの立場役割から課題をどのように捉え、問題解決にどう寄与したのか。職場を改善に導くその力学をひも解いた。まずは、管理職の立場から組合の取り組みをどのように捉えていたのかを掘り下げていく。