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どうする日本人 1000兆円の借金

このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利顧問が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。


 国が税収以上の支出をすれば当然のように借金でそれをまかなう。洋の東西を問わず、昔から権力者(国王)が国を統治していれば、国王は簡単に借金を帳消しにしていたが、高い金利が求められていた。そこで議会が将来得られる税収を担保として債券を発行して、借金をするシステムを作り上げた。それが国債とよばれるものである。この制度はイギリスで生まれ制度として整備されていく。そして今に至る。
だから国債は政府が勝手に発行できるものではなく、議会が承認することにより、正式にその国の債務、つまり借金ということになる。日本の政府が発行する国債は議会の承認が必要で、そこで初めて、日本政府という組織の債務が国債(及び借入金等)となるのである。

 家計と同じように、借金をする限りいつか返済しなければならない。返済が不可能になってしまえば、財政破綻ということになり、国が破綻することを意味する。

 近年、国の破綻が大問題になったのが、まだ記憶に新しい2009年のギリシャ危機である。2009年というのも、それ以前からギリシャの財政は赤字を続けてきており、いわば慢性的な状況であったといわれる。政府は財政赤字を隠し続け、たまたま政権交代によって明るみに出された。

 話は横道にそれるが、私たちは、ギリシャの財政破綻が政権交代によって明るみになったことを心に刻んでおきたい。よく言われるように権力の座は、安泰が続けば必ずと言っていいほど慢心や淀(よど)みによって腐敗していく。政権交代があれば政治に緊張感が生まれ、心にゆるみは生まれない。常に最善を尽くすことに努力する。人間とはそういう生き物だ。政治はその人間によって行われるのだ。ギリシャの財政破綻は、そうした教訓を教えてくれている。

 さらにギリシャの財政破綻は、ギリシャのみならず欧州全体への影響が懸念された。

 2011年7月時点でギリシャの債務は返済不能な水準にあり、大幅な債務減免が避けられない状態になっていた。事実上のデフォルト(債務不履行)に相当する債務減免が行われれば、ギリシャ国債やギリシャの銀行の債権を持つ欧州銀行にも大きな損失が発生する。

 三大格付け会社はギリシャに対して国債の格付け引き下げを行い、EUによる増税・年金改革などを含む緊縮財政を要求することになる。当時のギリシャは公務員が労働者人口の約4分の1を占め、年金受給開始年齢も55歳からという手厚い社会制度が負担になっていた。財政赤字はGDP比で13.6%に達し、「国家の破綻処理」までささやかれていた。このままいけば、ギリシャがEUを脱退することも危惧された。EU脱退ということになれば欧州全体が大混乱に陥ってしまう。

 そこでEUはギリシャに対して財政支援を決定、ギリシャでは「金融支援プログラム」が実施された。その後、紆余曲折はあったが、2015年7月、ギリシャで財政改革法案が可決された。
これでEUの支援条件を受け入れる体制が整い、2019年に発覚し、2015年の政権交代によって一層混乱したギリシャ危機は、2018年には支援プログラムがすべて終了し危機的状況は終息を迎える。

 私たちは、国の借金が膨大になって返済不能に陥れば国民生活に多大な影響を与えるとことをギリシャ危機で学んだ。

 さて今の日本はどうなっているのか。

【日本の国債と借入金、政府短期証券の残高を合計したいわゆる「国の借金」が2020年12月末時点で1212兆4680億円となり、初めて1200兆円を突破した。同年8月1日時点の日本人の人口(1億2333万人)を基に単純計算すると、国民1人当たりの借金は約983万円に上る】

2021年2月10日付「時事通信」

 日本はこの借金をどのように返済するのかが問われているのだ。国債の大量発行がこのまま続き、金利も動けば国の予算に占める国債の利払い・償還(返済)の割合が足元の2割強からさらに増え、その分必要な政策に回せるお金が減っていく。次の危機や大災害が起きた時に、財政を使って対応する力も相対的に落ちる。

 こうした財政悪化に政府は手を拱(こまね)いていたのか。何とか借金を減らそうと努力してきたのか。それが問われている。

 国民の信を問う選挙を迎えると、政権党は選挙民(国民)に迎合する政策を打ち出すのが常だ。

【18歳以下の子ども向けの10万円給付に約1・2兆円、中小企業など向けの「事業復活支援金」に約2・8兆円等々――。コロナ禍で「兆円単位という事業が次から次へと打ち上げられるようになった」。】

朝日新聞デジタル」2022年11月6日

 政府の債務(借金)は国内総生産(GDP)の2・5倍を超え、実に戦争の費用を賄うために国債を乱発していた第二次世界大戦直後よりも高い水準になってしまった。

 では日本政府はどこから借金をしているのか。それは言うまでもなく、政府と一体になってしまった日本銀行が国債を大量に購入しているからである。素人の表現をすれば、日銀が政府の発行する借用書(国債)を大量に購入し、お金を用立てている図式だ。

 誰が考えても、借金ならばいずれは返済しなければならない。返済金には予算があてられる。そう「国民の税金」が充てられるのだ。私たちの税金で返済することを前提に借金をしているのである。

 ギリシャが大問題になったのは、ギリシャの国債は外国資本が買っていたから、返済を迫られれば国に返済能力はなく、国の財政が破綻してしまうからである。国の財政が破綻してしまえば、ギリシャの国債を買い受けていた外国資本は軒並み経営悪化か、倒産をしてしまう。

 それに引き換え、日本の場合は、大半の国債を買い受けているのは日銀であり、郵貯であり、銀行である。日銀や郵貯や銀行は、預金者の大半が日本人であり、自国民が一斉に引き下ろしに来なければ、大量に国債を抱えていても返済を迫られることもなく問題にはならない。権力者はそんなことは起きないだろうと高をくくっている。だから国会を揺るがすほどの問題にもされず、ついに1000兆円を超す借金を抱え、国会でも大した問題にならずにいる。

 そして納税者の私たちも、「今さえ良ければよい」とばかりに、これだけの借金をしまくる政府や政治家を黙認し続ける。
本当は増税をして借金を徐々にでも返済しないといけないのに、選挙に勝つことを最優先して歴代政権は嫌なこと(増税、支出削減)をしないできた。

 しかし借金である以上、いずれは返済しなければならない。そのツケはだれが負うのか。いうまでもなく負うのは納税者、国民である。私たちの年代が人生を終えれば、負うのは次代の人々だ。つまり、私たちの子供や孫たちだ。

 私たちは、子や孫に膨大な借金のツケを残し、今さえ良ければいいと「安穏」と過ごしている。

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