【インタビューVOL.06】労働組合における「人」との向き合い方を探る~障がい者雇用を通じた取り組み~
6回目となる今回は、元いなげや労働組合 中央執行書記長で、現在はいなげやグループで働く障がい者の方々へのフォローと職場での定着支援などを行っている株式会社いなげやウィング 管理運営部 兼 事業推進部 部長小林 仁志 氏に労働組合における「人」との向き合い方について伺いました。
――まずは株式会社いなげやのご紹介をお願いします。
小林氏/株式会社いなげやは首都圏一都三県に130店舗以上を展開する、食品スーパーマーケットチェーンストアです。
私が勤めている株式会社いなげやウィングは、いなげやグループで働く障がい者の方々へのフォローと職場での定着支援などを行っています。
――役員時代のエピソードを教えてください。
小林氏/いなげやの店舗の副店長を担当しながら、非専従で組合活動に携わったのが、私の組合役員としてのスタートです。
非専従時代にもたくさんの思い出がありますが、記憶に残っているエピソードは、組合の副支部長のときに担当していたレクリエーション活動ですね。
当時は組合活動と言っても賃上げや交渉などではなくて、基本的にはどうやって組合員を喜ばせるかの視点からレクリエーション活動に力を注いでおり、私の担当していた副支部長は「イベント係」のような位置づけでした。
当時は店休日があったので、その日に運動会を開催していました。「三多摩」エリア内の約20 店舗に声をかけて、900人の方が来てくれましたね。
当日の企画を話し合うために、副支部長たちと合宿をして、仲を深めるためにバレーをしたり、「掛け合いコール」を練習したり……。
今振り返ると、「同じ釜の飯を食う」というのはすごく価値があったなと、いい経験をさせてもらったなと思います。そういう時間を一緒に過ごした副支部長の仲間たちとの団結は強かったですね。だからこそ、900人呼べたのだと思います。
――イベントでは非正規雇用の方たちも参加されていたのですか?
小林氏/たくさんのパートナーさん(非正規雇用)が参加してくれていました。
そもそも、いなげや労働組合は設立当初からパートナーさんのほとんどが組合員です。設立する際に、正社員やパートナーさん問わず参加を呼びかけ、多くの従業員に賛同され、組織化した経緯があります。だから組合員のパートナーさんの割合も高いです。
なので、イベントというと、パートナーさん達が中心になって積極的に参加してくれています。
――非専従役員として組合活動を盛り上げた後に、専従役員になられていますが、専従になられたきっかけはありますか?
小林氏/非専従で中央執行委員を担当していたときの話ですが、仲が良かった支部長が突然、亡くなってしまったんです。会うたびに体調が悪そうだったので、いつも気にかけていたのですが、その後亡くなってしまい、もっと話を聴くことができたんじゃないかと今でもすごく後悔が残っています。
当時は、非専従で会社での業務もあったので、相手が大変なのに駆けつけられる自由がないことが本当に苦しかったです。
この出来事がきっかけで、自分が専従になって困難な状況の仲間を助けたいと思い、専従になることを決意しました。
専従になって最初に思ったことは、組合員一人一人の顔を見に行きたい、でした。組合員は約1万人いるので、なかなか無謀なことですよね。
途方に暮れていたとき、当時の社長が、自分の周りにいる信頼する人に自分の考えをちゃんと伝えれば、今度はその人が周りに伝えてくれる、その連鎖がつながっていくから大丈夫だと。それを聞いて、なるほどと思ったからこそ、まずは自分の身近にいる中央執行委員のメンバーをとても大事にしました。
――周りの方とのコミュニケーションを大切にされていたのですね。
小林氏/私自身、単純に「人」が好きでライフワークになっているのだと思います。
もともと飲みに行ってみんなと仲良くするのが好きで、いろいろな人と深い話もたくさんしました。中には、会社ではできない家庭などのプライベートの話をしてくれて、心を開いてくれた人もいました。
私は、ワーク(仕事)の領域も大切ですが、ワークに関係ない、ライフ(家庭)の領域も本当に大切だと思っています。そこがサポートできないなら組合の意味がないと思っています。会社は制度や仕組みづくりはできるけど、本当の意味で人に寄り添うことはできない。決まった業務が基本的にない労働組合だからこそ、組合員一人一人に時間をしっかり割いて、寄り添えるでしょ、と思います。
予算の考え方だって会社と労働組合では違いますよね。会社だと経営企画書を作成して、予算組みをしていく。予算がマストになってくるからこそ、事業を途中で切り替えたり、成果を求めずに時間をかけたりすることがなかなか難しいじゃないですか。
でも、組合はそうじゃない。組合費を使って必要なところに柔軟に対応することができます。私の時代は、組合員とのコミュケーションが必要だと思っていたので、組合費を部分的に使って、飲み会を開いていました。「組合費を使いすぎなんじゃないか」と言われたこともありましたが、組合員に寄り添うための一つ一つの行動に自信を持っているからこそ、何を言われても平気でした。
――いなげやウイングへ着任した経緯を教えてください。
小林氏/正直な話、当時はいなげやの子会社に組合をつくろうと動いており、役員を退任する気はなかったのですが、役員の世代交代を、ということでいなげやウイングの創立後まもなくに異動しました。
いなげやウィングは、いなげやウィング以外のグループ会社に入社する障がい者の入社前実習と職場での定着支援に加え、いなげやウィングとして店舗の支援(商品陳列や清掃)請負事業を展開しています。
また、いなげやウィングでは、メンバーの約80%が精神障害者保健福祉手帳を持っており、そういった方々が中心となって働いていただいています。
親会社であるいなげやでは、社員の等級が上がる度に研修を実施しているのですが、私も研修講座の枠をもらって、障がい者雇用についての講義を行っています。内容は、障がい者の方がどのようなものの見方をしているのか、それに対してどのようなコミュニケーションをとればいいのか、などです。管理職に対しては、実際に障がい者を雇用した際の対応や「合理的配慮」についてなどより具体的な説明を行っています。
――いなげやウィングに行く前から障がい者とのかかわりはありましたか?
小林氏/専従時代に出合ったパートナーさんのお子さんが障がいを持っており、それが障がい者との初めてのかかわりでした。そこからのご縁で、専従時代にはお子さんの通っていた特別支援学校の校長先生に障害についての講演をしていただいたこともあります。店長をやっていたときは自分の下で障がいを持つ方が働いていたこともありました。
なので、いなげやウィングに異動するずっと前から障がい者とのつながりはありましたね。
――障がい者への関心が高まったきっかけはありますか?
小林氏/専従時代、組合員を対象に社員の7割が障がいを持つチョーク製造会社への見学を行いました。そこに普段は組合活動に一切参加しない方が夫婦そろって来てくれたんです。なんで参加してくれたんだろう、と思い当日話を聞いてみたところ、子どもが障がいを持っていると。自分の子どもが将来どういうところで働けるのかを知りたくて来たんです、と言われて、こういう人たちが見えていないだけで組合員の中にたくさんいるんだ、と気づかされました。そこから障がい者に関する研修などをやっているうちに、組合員からいろいろと相談が来るようになりましたね。
――会社としても障がいに関しては小林さんにという雰囲気になっていたということですよね。
小林氏/今思えば、そうですね。
だからこそ、会社から既に障がい者とのつながりを持つ自分に、いなげやウィングと障がい者や障がいに関わる会社とをつなげるハブ役を担ってほしいと見込まれていたのかもしれません。当時のいなげやの社長からも小林は障がいに詳しい、と思われていました。
――いなげやウィングで働くうえで、大切にしていることを教えてください。
小林氏/「人」を大切にする です。いなげやグループを支えるのは「人」です。障がい者にとって働きやすい環境はどんな「人」にとっても働きやすい環境ですよね。なので、障がい者雇用は、どんな「人」も大切にする経営をしていく上で、とても重要だと考えています。
そして、誰もが働きやすくするためにはどうすればいいかを考える際に、考え方や視点を変えることが、ひいてはD&I(ダイバーシティー&インクルージョン)につながっていくと思っています。一人一人をちゃんと見る、ちゃんと話を聴く、そこから考えていく。これがD&Iの基本です。こちらが勝手に決めて、D&Iにとりかかるという時点でおこがましい気がします。話を聞いて、取り組んでいたら結果的にD&Iになったぐらいの方がいいですね。
ただ、やみくもに取り組むのではなく、会社としてぶれないようにするため経営理念と紐づいているのか、都度確認していくことも大事だと考えています。
――組合役員の経験は今どのような形で生きていますか?
小林氏/組合役員を経験したおかげで、今でも困ったときに頼れるネットワークができました。なので、「人」が私の財産となっており、今に生きています。
――現役の組合役員への応援メッセージがあればお願いします。
小林氏/会社では経験できない、組合でしか経験できないことを組合員に提供し、またその経験によって組合員の人間の幅を広げてあげることが、労働組合の役割だと思っています。そこで培った経験や「人」とのつながりが組合員の助けになり、財産になると思っているので、その機会を組合として提供し続けてほしいです。
――今回は貴重なお話を伺いました。誠にありがとうございました。
インタビューから小林さんの素敵なエネルギーを感じました。大切な視点をお話しくださりありがとうございました!