見出し画像

労働組合はこれから何と闘うのか?~2023春闘で見えた課題と展望 part2

「働く×マナビバ」では『j.uinonジャーナル』で好評だった特集「労働組合はこれから何と闘うのか?~2023春闘で見えた課題と展望」を前・中・後編の3篇に分けて掲載。
本記事では、電機連合、UAゼンセン、自動車総連に所属する大手三労組をお招きした座談会の様子を掲載。それぞれの産別が推進した2023春闘の裏側に迫る。
※前回の記事はこちらから




ゲストプロフィール


2023春闘の振り返り

―まず、2023春闘の振り返りを行いたいと思います。今年の要求根拠と経営側の受け止めについてご紹介ください。

A氏 
当組合は上部団体である電機連合の統一闘争として電機連合の方針にのっとって要求内容を策定し、労使交渉に臨みます。2023年春闘では、定期昇給を維持した上で賃金水準改善額(ベースアップに相当)の統一要求額を月額7000円以上としました。
電機連合としては、金額は年によって異なるものの、過去10年連続で賃金水準改善を要求し、回答を得てきた歴史があります。賃金水準改善要求においては「生計費(主に物価や所得の状況)」「生産性(マクロ経済情報)」「労働市場(労働力の需給関係)」を重視しています。またOECD(経済協力開発機構)のデータから日本の賃金が国際的に低いことが判明しているため、国際競争力のある水準に向けて持続的に賃金を引き上げていきたいという狙いも持っています。今年は物価高を背景にした春闘という色合いが濃かったため、要求額は昨年の3000円から7000円に大きく引き上げました。他業界からすると7000円は低い額だと思われがちですが、10年間の積み重ねを踏まえての金額です。
今年の特徴は、電機連合の主要組合である中央闘争組合12社が満額回答でそろったことです。おそらく歴史上初めてのことだと思います。電機連合として統一要求内容は決めますが、それ以降は各社の交渉にゆだねられていますので、各社の交渉努力とその成果として、それぞれが7000円以上を獲得し、結果的にそろったということになります。
国際競争力の向上には人材確保が不可欠で、賃金をいかに国際競争力のある水準に近づけていくかは労使の大きなテーマです。来年の春闘もこの前提で検討することが妥当だろうと考えています。

B氏
当組合が加盟している上部団体の自動車総連(以下 総連)は、単組として直接加盟するのではなく、同じグループ企業の他組合と労連を結成し、労連として加盟するという形をとっています。総連は、要求金額も日程も共闘で春の交渉を行ってきました。しかし今年は、有額要求することを前提とした上で、具体的な内容は各労連が実態を踏まえて検討しました。総連の方針を受け、労連が方針を出し、それを受けて加盟組合が要求内容を決めるという流れです。
当組合は、今年も有額要求を行いました。要求の根拠は、「業務効率化(労働の質)」「競争力」「生活を取り巻く環境」「賃金水準」です。「業務効率化(労働の質)」は足元の成果、それに対して「競争力」は数年先に当社の商品が市場で競合できるように進めている仕込みを評価しようという観点です。「生活を取り巻く環境」は物価、「賃金水準」は同規模の同業他社との比較、さらに組合としての社会的責任を加味し、総合的に判断して要求額を決定しています。
今年は物価高に加え、同業他社が春の交渉前に物価上昇分に対する手当を支給した事例などもあり、職場の中でも賃上げへの期待感が一層高まった感は否めません。ただ、労使共に賃金は成果配分であるという考えを持っているため、足元の業績と世の中の流れの中でどう着地するかは難しいものがありました。
世界規模での半導体不足による減産や労働力の奪い合い、新しいメーカーが電気自動車を軸としたビジネスモデルをもって参入するなど、自動車業界を取り巻く環境は大きく変化しています。そういった産業としての課題が産業別労使会議で語られた中で、同業他社の要求水準を意識しながら要求額を決めていきましたが、結果的には4つの要求根拠に対してバランスの取れた要求額になったと考えています。

C氏
当組合はUAゼンセンの方針に沿って、流通部門の統一闘争基準を策定していますが、今年は物価上昇や燃料費高騰を背景に、製造産業部門、総合サービス部門を含め、3部門すべてでベースアップ獲得が統一闘争ルールとなりました。
ただ私自身は、物価上昇や円安を根拠としたベアには賛同していません。というのも業界の中でも当社は賃金水準が低く、労働条件も恵まれているとはいえないので、業界トップ水準まで引き上げるための交渉を続けてきたという経緯があるからです。今年も基本的には当社の賃金課題解決のための要求を基準としました。要求の根拠は「賃金課題」「採用優遇性」「会社収益への影響」「価値に見合う労働」です。
今年の春闘は、追いつきたい賃金水準から逆算し、今年要求すべき金額を設定しました。特に力を入れたのはパートの賃上げです。パートは1人当たり1円上げるだけでも経営にかかる負荷が高いですが、近年最低賃金が毎年25~30円水準で上昇していることから、最低2年分+αのベア金額で決着しました。
連合の中でパートを組織化した単組を最も多く抱えている産別は、おそらくUAゼンセンだと思います。ただ、そのパートの賃上げに関しては、各社で頭を悩ませているところです。


多様化・差別化が進む組合員の処遇に
労働組合はどのようなスタンスを示すか

―高度IT人材の活用という論点が多く議論されることが増えてきましたが、今春闘でも議題として挙がりましたか。

B氏 
自動車業界においても高度IT人材に対するニーズが高まっていますが、採用するとなると一般的にはものづくり企業の賃金体系では太刀打できないと聞いています。別の枠組みの賃金体系で雇用するという話になったとして、それを労働組合としてどう考えるのか。またリモートワーク前提での入社でアウトプット的にも問題ないとした場合、組合としていったい何をサポートするのか。社員間のつながり的なものをサポートすることはできるかもしれませんが。

A氏
当社が世界の人材獲得競争で競争力を保つためには、国籍や居住地に関係なく、世界中の人材から比較検討可能な企業として認知されることが重要です。そのため、経営としてもグローバルスタンダードな処遇制度を確立するために、ジョブ型への移行を目指したいと考えています。組合としても、自社の事業環境を考慮すると、妥当だと考えています。特に高度IT人材は、IT業界の中でも特別な処遇制度をつくらなければ獲得できないといった側面もあり、そうした人材の処遇をどうするかを含めて議論しています。組合としては自社の競争力維持・向上という基点で、賃金制度の議論をしていきたいと考えています。


もはや「闘い」ではない
一体化した労使関係

―現在もなお「春闘」という名称で呼ばれる労使関係ですが、労使のあり方が単純な対立構造で描けないということは現実としてあると思います。労使関係のあるべき姿や労働界全体の賃上げ機運についてリーディング/ユニオンとしての影響力・社会的責任を意識されることもあると思いますが、どのようにお考えでしょうか。

B氏
当組合の中では「春闘」とは呼ばずに、春季労使協議会という言い方をしています。

C氏
私たちも、労使が一緒に課題を共有し、会社をよくするため春季に行う協議の場であるという位置付けで、春の一時的な期間で話し合うものではなく、数年にわたる交渉だと考えています。

B氏
春季労使協議会で重視するのは、労使の課題や考え方を共通認識としていくことです。それができれば、会社もきちんと施策を打ってくれます。今のところ地域社会への責任については労使で深く協議するまでには至っておりませんが、自労使だけで完結する春の協議が限界に来ているなら、今後はメインテーマに挙がってくるのかもしれません。
最近、会社が組合的になってきていると感じます。経営側も人的資本経営へシフトする中で、従業員の声を聞く経営をやろうとしています。となると今まで組合がやってきた役割責任を会社が担ってしまう可能性が十分ある。そうなったとき、私たちは何をするのか。新しい労使関係の中で何を築いていくのか。これまでの役割以外に意義や意味があるのであれば、そこに突き進んでいく。そういうことを考える時期に来ているのではないかと思います。

A氏
当組合も単組では春闘ではなく春季交渉という言い方をしています。会社の組合化という話はまさにその通りだと思います。また、当社はフルフレックスなのですが、コロナ禍によりテレワーク・在宅勤務が予想を上回るペースで導入されたことなど、柔軟な働き方が制度と運用面で定着したことから、労働環境面においてこれ以上改善要求すべきものがほとんどない状況です。果たして組合は、今後どんな活動をしていくべきなのか、この1年で確認しなければならないという自覚があります。
究極的には、組合員一人一人がそれぞれのライフステージにおいて、会社の中、生活面で充実した生活を送れているという実感が持てるようなサポートをすることが組合の役割ではないかと考えています。また出社率が低い中で、従業員が組合としてのつながりを感じられるようにやっていくことも大切です。欧米のような産業内組合組織にシフトしていく動きがあってもいい。処遇や制度がグローバル化していくのなら、組合もグローバルスタンダード的な仕組みにしていかなければならないのではないでしょうか。

C氏
私たちの業界は人への依存度が高いため、経営が従業員一人一人にしっかり目を向けることが大事です。経営が組合的な取り組みを始めたのはいいことだと思うし、むしろ徹底的にやってほしい。お互いが持っている技術を提供し合っていい会社になっていけばいいのですから。極端な言い方をすれば、組合がなくても会社は回るのかもしれません。しかし、教育や相談窓口的機能は何らからの形で会社の中に残るはず。今は組合という組織である以上、ある種のプロ集団でいたいとも思います。一方で、果たして今の労働組合が究極の形なのかについては疑問もあります。今の時代、これからの時代にどうアジャストしていくのかは考えていかなければなりません。
組合はその経営目標を生活者の視点から追求し、会社への提言や世の中への発信を行っていく。それができる人材を組合が生み出し、会社に戻って経営に関わっていくようになれば、人間形成の中で一時期を過ごす価値を示すことができるし、人材育成の場であり、社会に影響を与える組織として、存在意義は失われないと思います。

次回「労働組合はこれから何と闘うのか?~2023春闘で見えた課題と展望part3」では、教育的機関という意味での労働組合の存在価値について、ゲストの方々に語っていただく。


『j.unionジャーナル』は、組合活動と組合リーダーを応援するマガジンとして、j.union株式会社で発行している組合役員向けのフリーペーパーとなります。発送をご希望の方は、こちらからお申し込みをお願いします。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!