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【インタビューvol.1】組合の新しい可能性を探る

労働組合に関わるさまざまな人(労働組合役員やOG・OBなど)に「労働組合の新しい可能性」についてお話を伺うインタビューシリーズです。

第一回目となる今回は、自動車系の労働組合にて書記長をご経験し、現在は石油化学メーカーの人事部門にて主に役員制度に関する業務に携わる松添氏にインタビューさせていただきました。
労働組合役員時代のご経験を紐解きながら、組合役員と人事の両方のご経験を持つ松添氏だから見える労働組合の今後について提言をいただきました。

松添 明美
2016年9月~2021年8月、自動車メーカーの労働組合にて組合役員を経験。
その後2022年9月に石油化学メーカーへ転職し、人事部にて役員制度企画をメインに、サクセッションプランの制度企画や指名・報酬分野の制度運営、人的資本情報開示業務などに携わる。

―まずは松添さんの組合でのキャリアを教えてください。

 2016年9月に組合へ出向となり、同年〜2 0 1 9年8月の二期にわたり本部の賃金福祉政策局長として春闘での賃上げ交渉などを担当しました。併せて上部団体である労連の事務局次長、自動車総連の労働政策委員会委員なども務めました。そして2019年に書記長就任となり、2 0 2 1年8月まで務めました。

―その当時の記憶に残る活動のエピソードをお伺いできますか。


 私の組合活動の集大成と言えるのは、局長時代に担当したコミュニケーションの重要性を伝えるマンガ冊子の発行です。
 当時は労使や組合員同士のコミュニケーションや対話が活発とは言えず、組合員の声を拾うのも意識調査くらいで、労使懇談会も形式的でした。組合員の声をもっと聴かなくてはならない、組合員にもっと伝えなければならない、理解してもらわなければいけない、組合の存在をアピールしなければならない。そんな私のモヤモヤした思いに対してj.union さんからご提案をいただき、発行した冊子です。
 私がこだわったのは労使共催での発行です。第1号のテーマは「コミュニケーションを変えれば職場が変わる」としました。前面には出さなかったものの、ハラスメント問題も意識した内容だったため、マネジメント層にも読んでもらわなければ意味がない。だからこそ絶対に労使共催にしたかったのです。会社側にそう言い続けて実現しました。
 組織課題であったコミュニケーションの重要性を具現化するといっても具体案を持っていたわけでもなく、冊子の制作経験もなく……。まさにゼロからの立ち上げでしたのでかなり記憶に残っています。コミュニケーションにはいろいろな形があるし、人によって捉え方も違いますが共通の認識を持つためにも啓もう冊子は必要だと感じていました。実際に組合員の方にインタ
ビューもさせていただき、リアル感のあるストーリー仕立てで制作できたのは、私にとっても、組合・会社にとっても大きな一歩でした。

完成した冊子を持つ組合役員時代の松添氏(当時)

―松添さんの思いが、経営陣や組合員に伝わったのですね。


 会社側は、冊子をWebではなく紙媒体で作成することへの抵抗感に加え、上司と部下のコミュニケーションに関する内容だったため、むしろハラスメントを助長するのではないかといったリスクを危惧する声が多かったです。職場委員からは、これまでやったことがない活動だったので、何か問題が起きたら尻拭いをするのは自分たちじゃないのか、忙しいのになぜそんなものを配らなければいけないんだ、といった声もあがりました。仮に職場でハラスメント問題が浮き彫りになったとしてそれに対応するのも、組合員とのコミュニケーションが基本でしょ、と説得しました。最初は形がないからどんなものなのか想像できないのですよね。だから「これなら」と思ってもらえる形あるものにすることは大事だなと実感しましたね。

―松添さんをそこまで動かしたものは何がありましたか?


 私は常に「変えたい」「変わりたい」という思いがあり、労働組合の世界も変えたいと思っていました。だから今までにないものを創る。それに尽きます。昔の自分は、やりたかったことがあっても、何らかの抵抗があると我慢してしまっていたのです。でも組合では、当時の書記長が「松添さんがやりたいことを何でもやっていいよ」と言ってくれ、実際に何かやろうとしたときに否定されることがありませんでした。この組合の恵まれた環境があったから自分の力を発揮することができたのだと思います。
 ちなみに、冊子の2号からは組合単独発行となり、私自身は3号の発行まで携わりました。同組合の広報が変わったきっかけはこの冊子だったのではないかと思っています。

―「やりたいことができる」組合という組織の価値を伝えることができますね。


 労働組合が会社と同じ組織ではだめなんですよ。組合の三役や執行部役員が会社の上司と同じことをしていたら、何のための組合なのか。でもなんだかんだ言って、会社と同じ仕組み・組織になっている組合は少なくないのではないでしょうか。その点、私は恵まれました。

―執行部内では、松添さんのやりたいことや変えたいことについて、細かいコミュニケーションがあったのですか。


 具体的な「あれをやりたい」「これをやりたい」について話すというよりは、日頃から雑談を含めたコミュニケーションが活発だったこと、そして当時の書記長といっしょにやれたことが大きいと思います。書記長がやってほしいことがなんとなく分かるし、書記長もこれは松添に任せたほうがいいと思ってくれ、すごく裁量権を与えてくれましたね。その分責任も伴いましたが。ときに書記長と意見が分かれてけんかすることもあったけれど、それは前に進むために必要なことでした。二人とも会社に対して疑問を持つスタンスだったし、お互い言い合える関係で、私は信頼していました。

― 先ほど「常に変えたい、変わりたい」とおっしゃっていましたが、その原動力は何なのでしょう。


 持ち前の性格もあると思います。よくよく考えると入社当時から会社への不満があり、辞めたいと思ったことは何度もありました。いざ本当に辞めよ
うと思ったタイミングで、組合への出向の話がきたのです。組合に行けば会社を変えられるんじゃないか。それに組合にも不満があったけど、文句を言うだけじゃなくて、自分が変えられるのではないか。そう考えたわけです。基本的にはポジティブなタイプですね。失敗するのは嫌だけど、失敗することで得た経験には汎用性があるんです。振り返ってみれば、組合出向前の営業職時代に現場の方やお客さまに怒られた時も、そこで生まれるコミュニケーションから関係性が深まっていき、自分で物事を前に進めていけたように思います。そういう経験もあって、相手のキャラクターを早めにつかんで、その人に合った会話の仕方で接するようにしています。

文句を言うだけでなくまず行動を!と主体的に取り組む松添氏

―ほかに力を入れた活動はありますか?


 毎年の意識調査も変えたいと思っていました。入社当時からの不満の一つだったのですが(笑)、調査用紙が回答しづらかったのです。自分の担当になった時は「よし!」と思いましたね。紆余曲折あり、紙とWebの併用からスタートし、現在ではWebだけの運用になっています。意識調査をやりっぱなしだったのも嫌だったので、フィードバック冊子を作成したり、会社への提言を組合機関誌で組合員にフィードバックしたりと力を入れました。
 あとは、女性活躍にも力を注ぎました。私は単組で初めての女性専従役員でした。ですから私で途絶えさせてはいけないという思いが強く、女だからとなめられたくなかったし、長く続けたかったし、結果を出したいと常に思っていました。「やっぱり女性はいらない」とは絶対に言われたくなかったのです。
 ですから女を前面に出していると思われるようなことはしない。ノーは言わない。言われたことは何でもやりました。夜勤の現場への激励会にも同行しました。うちの組合の執行部には女性役員がいることをアピールしたかったので、自動車総連の委員会や海外派遣にも参加しました。結果として、翌期からは継続的に女性役員が入ってきてくれて、組合のダイバーシティも進んだと実感できました

女性活躍推進にも力を入れて活動していた松添氏

―そうした松添さんのご活躍があって、今は女性役員がいることが当たり前になっているのですね。


 労連の女性委員紹介冊子を作成したことも大きな一歩になったと思います。2018年10月に労連に女性委員会を立ち上げました。加盟単組から女性委員を出してもらって、委員会がスタートしたのですが、メンバーはほとんどが非専従役員であり、組合活動に深く関わったことはないとのことで、やらされている感が見え隠れしていました。そこで女性委員会のメンバーがこの活動をやってよかったと思えるような成果、形を残したいと考えて作成したのが女性委員紹介冊子です。各単組の女性組合員が見た時に勇気づけられるような、自分もやってみたいと思えるようなものにしたいということで、ここはあえて女性らしさを押し出したビジュアルにもこだわりました。

―冊子の効果や女性組合員へのアプローチ、現場と向き合ううえで大切にしてきたことなどをお聞かせください。


 単組では、女性組合員に対し女性役員がいることを知ってもらい、何かあったときは私たちに連絡してくださいねとアピールしたことで、相談がたくさん寄せられました。やはり女性にしか相談できないような悩みがあるんですよ。そこで単組にいたもう一人の女性局長と一緒に週2〜3回、各支部でランチミーティングを行いました。こちらが2人で相手側は3〜4人。この規模ならじっくり話せます。男性がほとんどの現場では女性は孤独になりがちです。だからちょっといいお弁当を食べてもらって、言いたいことを吐き出してもらって、午後の仕事が少し楽になってくれたら、という雰囲気を前面に出しつつ、裏目的は理不尽な扱いや職場への不満がないかを聞き出すこと。ただダイレクトに聞いてしまうと構えられてしまうので、私たち役員が「皆さん、最近どうですか?」と軽い感じで話を振るところから始めました。誰か一人が口火を切ると、次々に話が出てくるんです。そうして「また相談していいですか」と言ってくれることも増えました。男性には言いづらいことも女性同士なら話しやすいこともあって、支部の皆さんがこの取り組みに賛同し、協力してくださったのはありがたかったですね。

―現在は、組合役員から人事へとキャリアチェンジをされていますが、キャリア選択にあたって組合役員のご経験は役に立ちましたか。


 組合役員時代には、人事課題や女性活躍などさまざまな課題を手掛けてきたのですが、現実的に労働組合にできることは会社に課題解決してもらうための提案・提言です。私は自分自身が実際に会社を変えていける立場になりたいと思って職場復帰をしたのですが、元いた会社ではそれがかなわなかった。だからかなえられそうな会社に行ってみたい。それが転職のきっかけでした。

―ご自身の経験から、労働組合の今後の可能性についてどのようにお感じですか。


 まずは労働組合の原点に立ち返ることが大切ではないかと私は思います。今、世の中が変化してきて、経営側も人的資本経営だとか人材戦略だとかやっていますが、言われるから形式的にやるという会社も実際は多いと思うのです。では労働組合は何の組織なのかとなると、やはり働く人が集う場所だと私は思います。世の中の潮流に合わせて組合が変わることも大事ですが、今までやってきた活動の原点でもある組合員と向き合うとか対話をするといった原点の取り組みを、その時々で振り返らないと間違った方向に進ん
でしまう可能性がある。変化が大きい時代だからこそ、その間違いが起きやすい気がするんですね。
 ですから労働組合の根本的な存在意義を変える必要はないと思います。むしろようやく時代が労働組合に追いついてきたのではないかとも思います。「人」に向き合う経営をしなさいという時代になったわけです。そんな時代だからこそ、経営側がやってくれて当たり前というスタンスに立っては絶対にだめです。労働組合がどんどん提言できる環境になったのだと考え、今こそ発言していくべきと考えます。従業員との対話も会社任せにしてはいけません。そこには利害が生まれますから。

「まずは労働組合の原点に立ち返り、経営にどんどん提言していくことが重要だ」と話す松添氏

―組合役員に求められる役割や能力についてはどうお考えでしょうか?


 これは自戒を込めて申し上げますが、組合役員でも特に三役は会社や経営の情報をきちんと収集し、勉強したほうがいいと考えます。経営側の情報量が圧倒的に多く、そこはどうあがいても変わらないけれど、世の中の経営のトレンドや競合他社の動向、政治的動きなどをキャッチアップしているだけでも全然違います。そうでないと経営側と対等に会話できません。今、私が経営側の情報を知りえる立場にいるからこそ、自分ももっと勉強しておくべきだったと痛感しています。
 組合は経営側をはっとさせる立場でなければいけないと思うのです。たとえば「これは組合員の声です」ってよく言いますよね。でも結局は一部の声。それをきちんと根拠をもって言うことが重要なのだと思うのです。総意だというのであれば本当に総意でなければならないですが、一部の意見であっても隠さず向き合うことです。個としての声があるのは事実なのだから、しっかり現場に足を運んで、最前線にいる組合員の話をたくさん聞き、その中で最優先課題は何かを労使で検討し、労使が真摯に向き合って建設的な議論をする。声を拾う役目は労働組合側が力を発揮してやればいい。労働組合があるならば、わざわざ経営側が主導してやらなくていいし、仮に投資家などのステークホルダーから要請があったとしても「うちは労働組合が主体となって労使で取り組んでいます」と経営側が言ってくれる取り組みができていれば良いと思います。労使協議や懇談の場にさまざまな声を持ち寄ったうえで会社はどうあるべきかという議論ができれば、組合の存在意義や存在価値も高まり、組合員に対する活動の見える化にもつながるのではないでしょうか。

最後にインタビュアーのj.unionメンバー(中村 絵梨佳:写真右、景山 康次郎:写真左)と
記念撮影。 インタビューから松添さんの素敵なエネルギーを感じました。大切な視点をお話しくださりありがとうございました!

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