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【インタビューvol.2】組合の新しい可能性を探る

労働組合に関わるさまざまな人(労働組合役員やOG・OBなど)に「労働組合の新しい可能性」についてお話を伺うインタビューシリーズです。

第二回目となる今回は、コマツ建機販売労働組合(現コマツカスタマーサポートユニオン)の中央執行委員長をご経験し、現在はコマツカスタマーサポート株式会社 サービス事業部サービス営業部 部長を務める広川 富士一氏にインタビューさせていただきました。
労働組合役員のご経験がありながら、管理職として活躍されている広川氏だからこそ見える労働組合の新しい可能性や組合への期待についてご提言いただきました。

広川 富士一氏
1988年 新潟小松販売株式会社に入社。
1989年より新潟小松販売労働組合の役員を経て、コマツ建機販売労働組合の中央書記長・中央執行委員長を経験。2012年に職場に戻り、現在はコマツカスタマーサポート株式会社 サービス事業部サービス営業部 部長を務める。

―組合でのご経歴、その後のキャリア、現在どのような仕事をされているのかなど、ご紹介いただけますか。

広川氏/1988年4月に当時の新潟小松販売にメカニックとして入社しました。6年目にコマツの社内スクールであるコマツサービス専科の2期生として1年間学び、卒業後は新潟支店サービス課でフロント、サービス営業を務め、2004年にサービス責任者に。この時には既に組合役員を務めていました。09年にコマツの建設機械の国内販売・サービス会社の統合によってコマツ建機販売が設立されるのですが、その際に新潟で委員長を務めていた私がコマツ建機販売労働組合の中央書記長となり、1年半後に中央執行委員長に就任しました。
 そして12年10月に職場に戻ります。コマツ建機販売サービス企画部サービス企画グループグループマネジャーとして2年半務めたのち、東北カンパニーサービス部長を経て、18年10月にコマツ建機販売、コマツレンタル、コマツリフトの3社がひとつとなって発足したコマツカスタマーサポートのリフト事業部副事業部長兼サービス部長というポジションに就きました。リフト事業部は21年4月に廃止され、現在はサービス事業部サービス営業部長を務めています。


―組合活動の中で、特に印象深かったことや現在の糧になっていることは何ですか。

広川氏/入社1年目の秋から、当時の小松販売労働組合 新潟支部の青年婦人部長、その後新潟支部 副支部長を務めていたのですが、サービス専科に行くことになって1年離れ、その後の役員改選のタイミングで、当時の委員長から「新潟の書記長をやれ」と言われたのです。また、「コマツの販売会社の組合の雰囲気や活動を変えてこい」と。
 当時はまだ全コマツ労働組合連合会(以下全コマツ労連)ではなく、コマツグループ労働組合協議会(以下グループ労協)でした。最初に各ブロックの書記長会議に参加した時は本当に驚きました。きちんとした議題もなく愚痴ばかりの会議、それが終わったら懇親会、飲み会。「何なんだ、これは……」。もしかしたら当時はそれでもよかったのかもしれません。しかし私が着任した時期は、ちょうどグループ労協から全コマツ労連に変わる転換期であり、コマツグループ全体の活動が変わっていくタイミングだったのです。そこで東日本ブロック、次に東北ブロックの改革を任されました。コマツの販売部隊の組合役員の雰囲気も変えられたと思いますし、新潟で「変えてこい」と言われたことが私の糧になっています。いわば変革者としての役割を期待され、起用されたわけですから。

組合役員時代の広川氏(当時)


―組合役員退任後、サービス営業の最前線に戻られましたが、なかなか珍しいケースのように感じます。

広川氏/私自身、当社のサービス部門のトップになりたいという思いがありました。部門長になりたいということではなく、サービスを統括する組織の中で仕事をすることを目指していました。コマツ建機販売のサービス企画部は国内のサービスの統括部署だったため、そこでの役割は大きいと考えていました。
 元々人事・労務系出身ではないのでそのルートはなかったし、安全系、コンプライアンス系も自分の頭の中にはありませんでした。一部ではそちらへ推す声もあったとは聞いています。でも私も希望していないし、組織もそういう選択をしなかったということです。
 約3年間現場を離れていましたが、サービス部門に戻ることにリスクや不安は感じませんでした。新潟時代はサービスマネジャーの役割をやりながら組合の委員長をやっていましたし、コマツ建機販売労働組合時代も、何かプロジェクトがあると、会社の理解もあり、組合代表として参画させていただいたので、自分自身の業務レベルが下がったという思いもなかったです。どちらかというと、コマツ建機販売という大きな組織の中で、きちんと自分の能力で役割が務まるかどうかのほうが不安でした。



―サービス部門をマネジメントする中で、組合とはまた違った判断をしなければならないといった難しさを感じることはありますか。
広川氏/特にはありません。組合役員であっても、サービス営業スタッフであっても、マネジャーであっても、その立場ごとに最良の判断をするだけですから。ただサービス営業部長として何かを判断する時に、「これは組合の意見も聞いておこう」ということはあります。
 東北カンパニーにいた時も、サービス営業スタッフたちと一人一人面談をし、こちらの思いを伝え、相手の悩みも聞いてきましたが、だからといって組合的な考えで判断が鈍るかというとそんなことはありません。その時々の自分の立場できちんと判断するということです。組合にだって難しい判断はあります。決してハッピーな提案ばかりではない。それは社員に向けても営業やサービスにおいてはお客様に向けても同じです。
 私は組合は闘う組織ではなく、会社とパワーバランスを取りながら会社の業績をよくしていくための一員だと認識しています。それによって社員の待遇がよくなっていく。会社の方針を組合がどうライン付けしていくか。会社ももっと組合を利用すればいいし、組合も会社を利用する。お互いが両輪なのだと思います。たとえば新潟時代は社長や業務部長が組合の理解者で、レクリエーションも労使共催。組合行事も会社から支援金をいただいていました。これは、新潟に限ったことではなく、コマツグループはどちらかというとそういう風土が強いと思います。
 会社側の言い回しと、組合の言い回しが違うかもしれませんが、それほど気にしたことはありません。いかにうまく事実を伝え、方向性を伝えるか。会社が言うことにすべて賛成ではないし、交渉事は当然あるべきだし、駆け引きやバランスも当然ありますが、そこはいかに互いに尊重し調整するかです。


―現在のお立場で「これは組合ならではの力、成果だな」と感じた経験はありますか。

広川氏/サービス営業という職種が組合員からあまり人気がありませんでした。サービス営業部長として何とかしなければと考え、人事部、組合と話をし、とにかく面談を行うことにしました。ただ会社側の部長が面談しても本音が出てこない可能性が高いため、組合から組合員へ面談の説明をしてもらい、面談自体も組合役員にお願いしました。面談は、組合の意識アンケートの内容も踏まえつつ、ストレス診断などを含めたものです。私の立場ではできないことだし、組合の力を借りなければできなかったと思います。コロナ禍での実施だったため、グループウェアを用いて約100名の組合員と面談してもらいました。これは組合の力であり成果でもあります。
 実際にサービス営業スタッフとの面談内容を聞くと、意外にも「やりがいがあります」と言ってくれた組合員が多かったです。ただやはり多忙さが負担になっている実態はありました。その面談結果を受けて、休日コールセンターを立ち上げました。休日に営業スタッフの携帯にかかってくるお客様からの電話を外部のコールセンターに転送する仕組みを作ったわけです。


―その他に、どんなところに組合独自の価値があるとお考えですか。

広川氏/業務の推進には、現場の意見が非常に重要だと考えています。中央生産性協議会や労使会議の回答が必ず手元に届くので、貴重な意見として受け止めています。数が多い意見に対して、何か仕組みとして手を打つことで現場が楽になったり、より生産性が上がったりするのなら、会社としても投資していきたいですからね。もちろん建設的な意見ばかりではないため、実現の見込みがない意見や要望についてはきちんとその旨を説明しています。そういったことも含め、現場に近い感覚は非常に大切だと考えていますし、当社のように規模の大きな会社の場合は、特に組合の力の重要性は高いと考えています。


―組合役員としてのご経験がご自身のパーソナリティに影響したり、マネジメントにおいて役に立っていたりすることはありますか?

広川氏/組合で、単組の役員、グループ労連の役員など、いろいろな立場を経験させていただいたことは人格形成に役立っていると思います。ただ、今の組織は違いますが、当時の新潟小松労組は中央執行委員長に決裁権限が集中していたので、勘違いしないようには努めていましたね。
 私は小さな組織の委員長は長く経験すべきではないと考えています。新潟小松労組では書記長を1期、委員長を3期務めたため、その中で経験も積んでいくし力も大きくなっていく。すると会社も「広川さえ押さえれば」と思って接してきます。ただそれで組合としての組織力が上がったかというとそうではない。変わっていくことが必要だし、それは会社の経営も同じことです。現在はサービス営業部長という肩書があるわけですが、権力者のような発言はしていないつもりです。
 私の世代になってくると、組合活動を一緒にやっていた仲間たちが要職に就いていますし、販売側だけでなく生産側の人たちとも一緒になってグループ労協や全コマツ労連の活動をやらせてもらった経験は、幅広い人脈作りに役立ちました。当社では本社の部長職のほとんどをコマツ採用の人間が占めています。プロパーかつ高卒の部長職というのは両手で数えられるほどしかいません。当社には約5,000名の従業員がおり、プロパーの人間もかなりいますので、そういう人たちの道しるべに自分がなれればとも思っています。


―事業設計や職場設計など、マネジメントするうえで大切にしていること、今取り組んでいることは何ですか。

広川氏/われわれのような事業というのは、お客様への基本活動、根幹があってその根幹の派生が発展していくようなものだと考えています。ですから組織が変わってもやることは同じ。組織を変えたからお客様との関係性が変わるとも思っていません。組織が変わろうが目的はひとつ。手段やアプローチが変わるだけです。
 その意味ではサービス品質をもっともっと上げたいと思っています。接客、お客様対応、スピード感、正確さ。それらをどんどんレベルアップさせていきたいですね。


―今、会社や人事が労働組合化していると言われています。そのため組合の独自性を打ち出しにくく、悩んでいる組合役員が少なくありません。

広川氏/率直に言うと、会社の労働組合化はよい傾向だと思っています。会社と組合は一緒にやっているんだという姿をどんどん見せるべきだと私は考えます。組合も会社も目指すところは同じで、手法やアプローチの仕方が違うだけです。たとえば会社がエンゲージメントに関する取り組みをやっているなら、組合も関わっていますというところをどう組合員に見せていくか。会社をうまく使うことで組合の存在価値を示せるし、そのフィードバックとして、広報誌、会社資料、組合ニュースなどいろいろなツールを使っていくことだと思います。
 組合単独でオリジナリティーを出そうとすることで、かえって難しく考えてしまうのであって、会社主導の施策に組合が関わっていく、組合の取り組みに会社が乗っかっていくというような、両輪となれる労使関係になればよいのではないでしょうか。
 もしかしたら、いまだに組合は〝会社と闘う組織〞〝会社に対して文句を言う立場〞だと思っている人がいるのかもしれませんが、文句を言っていたら生産性が上がるのか。そんなわけはないですよね。組合としてどう会社の動きをサポートしていくかのほうに重きがあるのではと思います。
 組合の存在価値がどこにあるのか。どうしたら価値が高まるのか。そのためには会社との協業を打ち出すべきだと私は思います。組合役員もいずれ会社に戻ります。両輪の労使関係があれば、戻った時に会社の動きもわかります。
 現在、当社では、 j.unionさんに労働組合のコンサルティングだけでなく、会社側の教育研修もやっていただいていますが、まさにそういうことだと思います。


―組合が経営と協業できるためには、どんな手の打ち方があると思われますか。

広川氏/会社とのパワーバランスを取るためには、会社の中で認められている人物が組合三役にならなければ絶対に駄目です。そもそも優秀な人物でないと、会社側が相手にしてくれないし、組合内でも信頼されません。またそうした優秀な人物が就任したとして、同じ人がずっと委員長でいいかというとそれは違います。
 組合三役を組合という場を使って次の経営幹部へと育てていくとするならば、会社が認めている人物が組合役員になるべきだし、任期は短いほうがいい。ですから三役の選出には、会社側の理解を得ることが重要です。私の後任を決める時も、当時の業務部長と話し合ったうえで、私と会社側とで委員長候補を面談しました。
 何度も言いますが、組合は社会人として成長するためのステップのひとつであり、長くやる場所ではありません。優秀な社員を任に就かせることで組合の活動もよりよくなっていき、本人の経験値も高まり、将来会社の幹部へ育っていく。そのためのステップです。実際に私が委員長時代に一緒に活動した仲間はみな、現在会社で責任ある立場になっています。支部長もどんどん変わったほうがいいですね。活動の継続性を理由に何期も役員を続けているケースがあるようですが、長くやると必ず弊害が出てきます。
 あとは「やりたい」という人間にはやらせないこと。出世欲や、組合の成果を自分の手柄にしたいという考えから手を挙げる人もいるようですが、その欲求は会社に戻ってから仕事で実績を上げることでかなえてくださいと言いたいですね。


最後にインタビュアーのj.unionメンバー(横田 直也:写真左、横山 千裕:写真右)と記念撮影。 インタビューから広川さんの素敵なエネルギーを感じました。大切な視点をお話しくださりありがとうございました!

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