欲望が資本主義を生み、行き過ぎた欲望をコントロールするのが労働組合
このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利顧問が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。
人類の文明や文化の発展の歴史。表面上では素晴らしいの一言に尽きる歴史だが、見方を変えれば、その発展は人間の欲望の歴史ともいえる。欲望と一言で言っても、内実は、尽きない発展への関心や興味、人間の尊厳への敬意など、さまざまな感情が入り混じったものであったに違いない。
人類の発展に大きく貢献したのは産業革命といわれる変化だったかもしれない。産業革命も利益追求第一主義がもたらしたものといえる。
そして同氏は言う。
私たちが享受している現代の資本主義社会は、利益を追求するあくなき欲望とそれに伴う多くの犠牲、それを強いる一部の権力者(資本家・政治家)たちの存在、それに対する労働者や一般国民の抵抗があり、国民の強い意志は議会における資本家・経営者の暴挙に対する制限へと発展させていく。
資本の暴挙に対する制限の典型は、各種法律の成立である。それまで黙認を強いられてきた労働者は各種法律によって擁護されることになる。
人間の欲望によって、一部の権力者が無抵抗で貧困にあえいでいた多くの国民を抑え込み、欲望の赴くままに富を手にし近代資本主義の発展を突き進んできた。発展の契機になったのは、産業革命である。そして産業革命も私たちの生活に功罪を生んでいく。
労働組合運動のトップランナーと言われるイギリスでは、
を進めた。
イギリスにおける産業革命は、1700年代後半~1800年代半ばで完成するが、日本の産業革命では、有名な「富岡製糸場」(建設・操業開始は1872年(明治5年)、石炭産業で知られた「長崎県軍艦島」(正式名称は端島(はしま)、明治から昭和にかけて栄えた海底炭鉱)で、いずれも日本の産業革命の象徴と言えるのだが、両者ともそこで働く労働者に過酷な労働環境を強いていたのである。余談だが、過酷な労働環境を続けていた両者が、世界遺産に登録されているのは複雑な気持ちで見ざるを得ない。
皮肉にも過酷な労働環境を強いる権力者の欲望こそが、日本の経済発展の礎を築き、今日の日本の発展を支えてきたといえるのである。
日本の労働法は、1911年に公布、1916年に施行された「工場法」が最初で、工場労働者の保護を目的とした法律である。この法律は、1947年に労働基準法が施行されたことによって廃止されるが、この歴史こそが、いま私たちの働く環境を守る労働法(労働組合法や労働基準法など)を確立させてきたのである。
少し極端になるが、社会は人々の欲望の歴史であり、その一方で行き過ぎた欲望をコントロールする良識があり、そんな人間の集まりが今の社会を作っていると言えないか。しかし、問題になっているビックモーター事件でも明らかになっているように、一代で財をなした経営者の悪質な行為(経営者の恣意的な人事施策、責任を部下に押し付ける姿勢=良きリーダーとは、公平な人事施策、問題の責任を負う上司などではないか)は、今も資本主義社会が欲望の社会システムの残滓を持っていることを証明してはいないか。
労働組合は、そんな社会の中でどのような役割を果たすべきなのか。行き過ぎた欲望の暴走を抑止するのには労働組合の存在が欠かせない。社会の発展にとって、労働組合の存在意義を発揮させるためにリーダーに課せられた責任は重い。