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【No.12】被評価者セミナー(被考課者訓練)は、個別労使交渉・協議力(発言力)と職場の自主管理力を醸成している

j.union社の“WEBメディア―勉強note「働く×マナビバ」”開設にあたり、これから趣を新たにして、私の遺書として上梓した西尾力(2023)『「我々は」から「私は」の時代へ―個別的労使関係での分権的組合活動が生み出す新たな労使関係』日本評論社の内容紹介を兼ねて、シリーズにて「個別的労使関係での分権的組合活動の理論と手法」を綴っていきます。
※前回の記事はこちらから


A労働組合の関東甲信越地域をエリアとする分会(組合員:約4,500人、2021年5月末日現在)において、2021年6月9日~23日間にかけて、Webアンケートで実施した組合員アンケートのねらいは、目標管理・人事考課制度での各面談が、個別労使交渉・協議力(発言力)と職場の自主管理力の発揮・強化されているかどうかを見ていくものでした。
 
そのために、アンケートの設問には、下記に紹介するように、組合員がどのような面談をおこなっているのか、その面談が個別労使交渉・協議となっているのか、それが明らかになるように工夫を凝らしています。
 
被評価者セミナー(被考課者訓練)では、期首面接にあたりどのような事前準備をして臨むべきかから始まって、フィードバック面接までの各面談時に、上司と必ず話し合い、確認しておくべきことや、その際に要望すべきこと、さらには期中に上司と取っておくべきコミュニケーション事項について、組合員に教示していましたので、その教示内容を、実際に職場に戻って各人が実践しているかを確認していく、という設問になっています。


これから紹介する【事前準備】から【フィードバック面接】の設問への答えを見ていくことで、活用度が高ければ高いほど、面談が個別労使交渉・協議になっていることを示されます。さらに、その回答結果をわかりやすくするために、5件尺度法の回答を、「5.出来ている」と「4.まあまあ出来ている」を加算して「活用派」に、「3.どちらともいえない」をそのままにして、「2.あまり出来ていない」と「1.全く出来ていない」を加算して「未活用派」として割合を計算して示しています。

図表1 【事前準備】(α=0.920)

出所:西尾(2023:99)


図表1の設問は、目標設定面接に臨むに当たり、目標が上司からの押し付けにならないように対処しているのか、目標設定を自律的・能動的におこなう用意をしているのか、期首の目標設定面接という個別労使交渉・協議に臨む準備を整えているのか、を問うものです。「Q2-1-10目標設定にあたり、抽象的な目標(…を図る、推進する、徹底する等)を排除している」の活用派が43.7%、「Q2-1-13目標設定の事前準備は、職場の仲間と共同しておこなっている」の活用派が44.5%とやや低いものの、活用派の合計平均67.9%がで、事前準備をしっかり整えていることが示されています。
 
図表2は、期首面接がどのようにおこなわれているのかを明らかにする設問です。

図表2 【期首面接】(α=0.929)

出所:西尾(2023:100)


「Q2-2-12目標達成にあたり必要とする労働時間(年間や月毎)の妥当性等について話し合っている」の活用派47.7%(未活用派は32.5%)を除いて、その他の設問での活用派の割合は60%を超えていて(全平均は64.6%)、未活用派の全平均12.7%を上回り、期首面接が個別労使交渉・協議の実態にあることが理解されます。
 
図表3は、目標管理の期中での上司とのコミュニケーションはどのようにおこなっているのか明らかにする設問です。

図表3 【期中上司コミュニケーション】(α=0.911)

出所:西尾(2023:100)

目標管理で重要なことは、どのような組織や人であっても、立てた計画が予定とおりに進むことは、あり得ないことです。そのため、その過程で計画の調整・変更できるローリングプランにすることが求められます。そして、上司や同僚から支援を得られる環境にしているかどうか、その実態をたずねました。70.5%が期中での上司とのコミュニケーションが取れていることを示しています。
 
中間面接の設問(図表4)では、上半期の進捗状況をしっかりと上司に伝え、アドバイスを得て、下半期に臨める態勢を整えているかを問うています。

図表4 【中間面接】(α=0.916)

出所:西尾(2023:101)

平均81.2%という高い活用派の存在から、中間面接の目的やねらいを理解して、中間面接の機能を有効的に活用している実態がわかる結果となっています。労働時間管理の活用派(53.6%)は、他の設問と比べて低いものの、半数以上の人たちが上司と話し合っています。
 
期末面接を個別労使交渉・協議にしていくうえで一番重要なことは、自分なりに自己評価をして臨んでいるかです。自己評価と上司の評価の結果を付き合わせ、どこが違っているのか。違っていれば、それは評価基準の違いによるものなのか、評価の対象としたものの違いによるものなのか。それを確認できないと交渉・協議に納得できないばかりか、上司からの評価の一方的な押し付けを許してしまうことになります。そこで、図表5のよう設問を準備しました。

図表5 【期末面接】(α=0.916)

出所:西尾(2023:102)

「Q2-5-12今期の労働時間(年間や月毎)について総括し、来期の投入労働時間(年間や月毎)の予定を話し合っている」の活用派が38.5%と設問群の中で一番低く、その値は未活用派の37.8%と拮抗しています。この点について難はあるものの、活用派回答の平均値が66.7%であり、期末面接も積極的な個別労使交渉・協議になっていることが示されています。
 
フィードバック面接は、後述の結果から、目標管理・人事考課制度に対する納得度を高める一番重要な面談です。用意した設問は図表6のとおりです。
 

図表6 【フィードバック面接】(α=0.944)

出所:西尾(2023:102)

上記のような設問に対して、活用派の回答平均値が69.4%です。このことから、回答者組合員は、フィードバック面接もしっかりと臨めていて、納得度の高いことがうかがえます。

つぎに紹介するのは、さらに、各面談の設問グループに含めておいた設問から抜き出して、職場チームワーク度(図表7)と(労働)時間管理度(図表8)に関する設問です。被評価者セミナー(被考課者訓練)内では、組合員の結束力を高め、孤立を防止するために面談には、組合員同士「談合して臨め」とレクチャーされていたものです。

図表7 【職場チームワーク度】(α=0.864)

出所:西尾(2023:103)

回答組合員の職場ではとの限定ながら、活用派、すなわち「談合して臨めて」いる人たちの平均値が53.0%(2人に1人)はいる、という結果です(図表7)。
 
図表8の(労働)時間管理度の設問は、石田(2012b)や三吉(2013)が述べているように、日本では目標管理・人事考課制度の面談等によって労働時間が決まっていくことから、労働時間についての話し合いがされているかどうかを問う設問です。

図表8 【(労働)時間管理度】(α=0.848)

出所:西尾(2023:103)

目標管理の面談で、目標に関する話し合いだけでなく、その目標の達成のために投入する年間や月毎の労働時間についても話し合い、管理事項としているかを問うたものです。活用派の平均が46.6%であった。難度の高い課題に関する交渉・協議であるためか、これまでの各面談の活用派の割合と比べると、値はやや低くなっている。未活用派も31.2%で一番高くなっています。
 
以上の結果は、3月号No.10で紹介した組合役員&管理職アンケートの結果と同じく、被評価者セミナー(被考課者訓練)が、成果主義的な賃金・人事制度への転換によって導入された目標管理・人事考課制度の面談を、個人レベルでのフォーマルな個別労使交渉および個別労使協議にして、かつそれによって個別的労使関係を改善し、上司部下間のWin-Winの関係性を構築していることが明らかになったといえましょう。
 
さらに、この個別労使交渉・協議が、職場・個人レベルでの経営参加でもあることや、この個別労使交渉・協議を補完するシステムが、課・係・班レベルにおける全員参加の職場懇談会等であり、それらによって職場に自律的職場集団が形成されている可能性を示せたと思います。また、そうした職場の自律的集団が、心理的契約の更新を図り、労働協約の不完備性を補うなど、企業別組合ならではの新たな規制力となっているといえるでしょう。


参考文献
西尾力(2023)『「我々は」から「私は」の時代へ―個別的労使関係での分権的組合活動が生み出す新たな労使関係』日本評論社