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労働組合活動の再活性化の切り札とし登場したUI運動も、個別的労使関係の課題解決であった

j.union社の“WEBメディア―勉強note「働く×マナビバ」”開設にあたり、これから趣を新たにして、私の遺書として上梓した西尾力(2023)『「我々は」から「私は」の時代へ―個別的労使関係での分権的組合活動が生み出す新たな労使関係』日本評論社の内容紹介を兼ねて、シリーズにて「個別的労使関係での分権的組合活動の理論と手法」を綴っていきます。
※前回の記事はこちらから


こからは、1980年代後半から1990年代前半に展開されたUI(ユニオン・アイデンティティ)運動が、どのような個別的労使関係での分権的組合活動に着目したものであったのかを、いくつかの先行研究から見ていくことにします。
 
そもそも、UI運動とは、労使関係を労働力の取引関係であると規定し、かつ取引される労働力商品の特殊性(交渉力の非対称性等)から、集団的労使交渉が必須であるとする概念が世界的に一般化されている状況の中で、あえて企業内における個別的労使関係での分権的組合活動(領域A)にこそ、取り組むべき課題があるのではないか、とう考え(視点)から、労働組合活動の再活性化を目指そうと実践された運動でした。
 
佐藤(1991)は、1990年7月の日本生産性本部の「第1回『労働組合員意識調査』報告」の調査結果を取り上げて、労働者の価値観・行動様式の多様化が、組合員の組合離れを生み出し、それへの組合側の対応としてUI運動が取り組まれている、との認識を示し、次のように述べています。

UI運動では、

  1. 組合が組合員の側に顔を向け、組合員のニーズや意向を的確に把握し、それに基づいて企業経営のあり方や人事処遇への納得性を高める

  2. 基本的労働条件の向上などに有効に発言する

  3. 従来の組合組織や運営方法や組合サービスのあり方の見直しが求められている

―ことを取り上げ、たから、UI運動では、組合員が求める基本方向で活動をおこなうにしても、組合の革新が不可欠であった、との見解を示しました。 

以上の佐藤(1991)や、後述する佐藤(1999a、1999b)の指摘から、UI運動は領域Aにアプローチせんとしたものであった、と解釈してよいでしょう。
 

かし、佐藤 (1999a)になると、労働大臣官房政策調査部「労使コミュニケーション調査」(1994年調査)を取り上げ、過去1年間に個人的処遇に関する不平不満を表明した者は16.7%で、不満を表明しなかった者は83.3%であるとして、しかも、その不平不満を表明しなかった者の理由に、不平不満がないために表明しなかった者は43.4%で、不平不満があるにもかかわらず、述べてもどうにもならないとあきらめている者と、述べる正式のルートがないとの理由で表明しなかった者が56.6%もいる、としています。
 
このような調査結果から、佐藤 (1999a)は、UI運動は、不平不満が従業員の間に解消されずに、潜在化している可能性を提示しています。これらのことから、UI運動は、個別的労使関係での組合員ニーズの問題解決(領域Aへの踏み込み)にまで、残念ながら至らなかったことが明らかです。
 
 
UI運動が個別的労使関係での組合員ニーズの問題解決(領域Aへの踏み込み)にまで至らなかった理由を、佐藤(1999a)は、組合の多くは、組合員の仕事や処遇にかかわるルール作りに発言するだけでなく、ルールの適用に関する組合員の不平や苦情を汲み上げ、それをルールやその運営に反映させ、苦情や不平が生じないようにする努力はおこなっていた。しかし、そうした組合でも、ルール形成やそのフォローに際して、職場集会や意識調査などで組合員の要望把握の努力をしているものの、組合員がインフォーマルに組合役員に不平や不満を持ち込んだときにのみ対応するにとどまっていた。そして、このように消極的な対応となる理由に、苦情の掘り起こしを積極的におこなうと、労働組合の活動範囲を超えた多種多様な苦情や不平が噴出し収拾がつかなくなる、といった危惧を抱いている組合役員も少なくないからであった、と述べています。
 
佐藤(1999b)では、人事処遇制度の個別化によって発生する組合員個々人の職業生活上の苦情や不満などに関して、労働組合として、より積極的に対応することの重要性を重ねて指摘していました。しかし、管理職の多忙化や苦情処理機能の低下もあり、目標管理制度の導入で、上司との話し合いで定めた目標や目標の達成状況に関する評価などに関する苦情や疑問を、その原因である上司に訴えることは難しいことを指摘しています。それもあり、労使間で設定されたルール等の組合員への適用のあり方や結果、その他の個別の労働条件に関する組合員の苦情や疑問の円滑な処理が、労働組合の課題になってきていることを指摘するにとどまっていた、としています。
 
UI運動は個別的労使関係での組合員ニーズの問題解決(領域Aへの踏み込み)にまで至らなかった理由について、稲上・井出(1995)においても、

「組合離れといい組合への稀薄な関心といい、それは組合の経営参加行動によって回復できる程度のものではなく、もっと深い構造的な原因(しかも組合運動の力量を超えた原因)に基づいている可能性がある」(p.249)、

と指摘するにとどまっていました。
 
藤村(1999)も、ホワイトカラー層の増大に伴う個別的人事管理志向の人事管理は、労働組合結成の基本原則である集団取引に反するものであり、これまでの労働組合は同質の労働を束ねて経営側と交渉することで力を持ってきたこと等を考えると、

「個別人事管理のもとでは、集団取引が意味をなさなくなる。だから、労働組合として、何を結束の基本に置くかを考え直さなければならない」(p.93)

と指摘するにとどまっていました。

仁田(2002)は、明確に個別的労使関係に着目した先行研究で、

「近年の雇用関係の変容は、従業員の間に、従来とは異なった様々な利害関心を生み出している。たとえば、成果主義の人事管理は、それが、公正に運営されているかどうかという疑問を呼び起こす」(pp.16-17)

として、その疑問発生の根拠として、次の4点をあげています。

  1. 目標の設定は従業員にとって公正な水準に定められているのか

  2. 過大な目標設定は実質的な労働強化につながり、実際には、目標を達成するまでは働かざるをえず、サービス残業を増やす結果になっているのではないか

  3. 目標達成度の評価は適正におこなわれているのだろうか

  4. ほかの従業員とくらべて不利な評価を与えられているのではないか

してさらに、仁田(2002)は、従来、こうした潜在的な不満を解消する上で重要な役割を果たしてきた中間管理職・監督職をキープレーヤーとする職場のタテ系列の人間関係が機能不全を生じさせている可能性が高いこと(p.17)を指摘して、このような状況で、より客観的な評価基準を設定しようとする成果主義管理のもとでは、そこにある種の個別取引の要素が生まれてきているので、公平な処遇、少なくとも評価の透明性を確保するための仕掛けとして、労働組合の職場組織を通じた苦情処理の仕組みが重要な一翼を担いうるのではないか(p.17)、と個別的労使関係での分権的組合活動の可能性を示唆します。
 
さらに、個別的労使関係に着目したものの、提言で終わっていたのが、久本(1999、2004)です。久本(1999)では、職場での苦情処理がどのようになされているのか、統一的な調査フォーマットを用いての、32か所の組合(支部)での聞き取り調査の結果から、労働協約などに規定された苦情処理制度はほとんど機能していないことを指摘し、処遇の個別化が進行しているため、苦情の発生は不可避的である。だから、広義の苦情の掘り起こしとその適切な処理こそが、組合を一般組合員に身近にする最も大切な作業であり、これによって、組合員の組合離れを防ぐことができるだろう、とそこに可能性を示唆しました。
 
そして、久本(2004)では、処遇の個別化が人事考課などについて組合員の関心を著しく高めている。だから、公正な評価がおこなわれているかどうかについて、評価システムだけでなくその運用面においても組合が積極的に活動する場はむしろ広がっている、と指摘し、そして、組合員のエンプロイアビリティを高めるという観点からも組合は活動しなければならない。組合員のキャリア形成を企業に全面的に任せるというやり方では組合員の信頼は獲得できないであろうから、こうした活動に労働組合は積極的に取り組まなければならない、と指摘していましたが、提言のまでで終わっていました。
 
このように、労働組合活動の再活性化の切り札とし登場したUI運動も、ねらうところは個別的労使関係の課題解決によって、組合員・労働者の組合離れを防ぐ(組合員の支持を得られる組織へ脱皮を図る)ことでしたが、成果をもたらすには至りませんでした。そして、その後訪れたバブル崩壊(雇用危機)によって、それどころではなくなってしまいました。
 
 

参考文献
稲上毅・井出久章(1995)「企業別組合の諸類型―経営参加行動からみた類型化」稲上毅編『成熟社会のなかの企業別組合―ユニオン・アイデンティティとユニオン・リーダー』日本労働研究機構
佐藤博樹(1991)「労働者の価値観・行動様式の変化と労働組合の対応」『日本労働研究雑誌』日本労働研究機構379号
佐藤博樹(1999a)「『UI運動』の成果と労働組合の課題」『連合総研レポート』連合総合生活開発研究所、No.132
佐藤博樹(1999b)「総論」「職場労使関係の国際比較」研究委員会『職場労使関係の国際比較に関する調査研究報告書(職場の苦情処理に関する調査研究)』日本労働研究機構=連合総合生活開発研究所
久本(1999)
久本憲夫(1999)「第1部 国内編」「職場労使関係の国際比較」研究委員会『職場労使関係の国際比較に関する調査研究報告書(職場の苦情処理に関する調査研究)』日本労働研究機構・連合総合生活開発研究所
久本憲夫(2004)「労働組合の生きる道―内憂外患をどう克服するのか」『生活経済政策』生活経済政策研究所87号4月久本(2004)
藤村博之(1999)「これでいいのか?労働組合」労使関係常任委員会調査研究報告『職場と企業の労使関係の再構築―個と集団の新たなコラボレーションに向けて』社会経済生産性本部
仁田道夫編(2002)『労使関係の新世紀』日本労働研究機構


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