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モノづくりの基盤、あらためて技能五輪を考える

このコラムは、元連合副会長・元JCM議長(現顧問)・元電機連合委員長(現名誉顧問)である鈴木勝利顧問が、今の労働組合、組合役員、組合員に対して本当に伝えたいことを書き綴るものです。


日本がモノづくり大国として世界から名声を得たのはもう昔のことになるのだろうか。

もともと人類がこの世に生まれてからこの方、道具を発明し生活に欠かせないものとして珍重してきたのは、弥生時代の出土品を見ても明らかだ。鉄が発見され、中国を経て日本に伝承した後、さまざまな加工が施され、出土品の形状から生活用品として使われてきたのが明らかになっている。

私の一方的な見方だが、これらの歴史が日本人の「モノづくり」の第一歩だったといえよう。以来その精神は代々引き継がれ、現代の「モノづくり大国」へと成長したと考えられる。

このように、日本が「モノづくり大国」といわれる大きな特徴としてあげられるのは、世界で注目を浴びている「技能五輪」での成績である。時代はAIやITが国や企業の盛衰を左右するといわれるようになっても、あるいはどんなに情報化時代になったといっても、人が目にできる「モノ」の良否を決するのは「モノづくり」能力の力であると思う。

日本が国による「モノづくり」能力を競うコンテストの「技能五輪国際大会運営組織」に加盟したのは、1979年(昭和54年)のことである。
翌1980年には千葉県において「技能五輪全国大会」を主催している。
以後、1985年(昭和60年)の第28回技能五輪国際大会は大阪で開催、第62回技能五輪は2024年11月22日から25日まで愛知県をメイン会場として開かれた。

この時代は国際大会での活躍もあり、社会の話題も盛んで「モノづくり」への関心も高まっていた。
しかし、「技能五輪」が世間の話題を集めたのは短く、関係者を除けば人々の記憶からも消えるが如くという様であった。

こうした現象の要因として考えられるのは、企業業績に大きく影響するのは技術開発力であるとの認識が広がったことにある。会社の盛衰は技術力で決まるというのが世間一般の風潮であった。

しかし、これには落とし穴があった。いくら立派な技術開発製品であっても、それを製品に仕上げるのには現場の技能が欠かせないことだ。設計部門には高い技術開発力と、製品化する製造現場には優秀な技能がなければならない。両方が確立されて初めて評価されるのだ。

しかし、残念ながら情報化時代には技術開発力ばかりに関心が集まり、製造現場の技能への関心は薄れていった。そんな中、つい最近ある企業別組合の機関紙で技能五輪の記事が目に入った。
技能五輪で入賞した記事である。
技能への関心が薄れているのではないかと危惧していた矢先の記事であり、久しぶりに安堵したものだ。

しかし、最も感動とまでいかなくても感心したのは、ニュースの大半を技能五輪の入賞に焦点を当てた記事だったからである。入賞した組合員は全体から見ればわずか数人に過ぎないが、その数人に焦点を当てていたのは、該当者を褒め称えるよりは、会社経営にとって製造現場における技能の大事さを訴えている点にある。

言い古された表現を借りれば、汗と油に塗(まみ)れ業務に専念する日本人の勤勉さの姿であるように思う。

日本には古来から「職人技(わざ)」とか「匠」といわれる技能を表わす言葉がある。
寺社の改修で話題になる(宮)大工の信じ難いほどの高度な技能、あるいは刃物類の鍛造・製造などなど。現代社会の生活からは想像もできない高度な技能なのである。その流れの中に仕事における技能があるのである。

そして、経済力の一要素としての技能の大切さを表わすものとして、国が行う技能検定制度がある。
技能検定とは、働くうえで身につける、あるいは必要とされる技能の習得レベルを評価する国家検定制度で、機械加工、建築大工など全部で133職種の試験がある。試験に合格すると、職業訓練指導員試験の実技試験の免除、関連学科の受験免除などの扱いが受けられる。

身近な名称の職種をあげれば、建設関係、金属加工関係、一般機械器具関係、電気・精密機械器具関係をはじめ食料品関係、繊維製品関係、木材・木製品・紙加工品関係というように、すべて網羅しているといってよい。

現代における国の経済力とは、AIやITの技術水準の高さと、現場力の総合力にあることを改めて痛感させられたものである。