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【インタビューVOL.07】若者世代を取り巻く閉塞感と効果的な関与の在り方を探る 

若手の離職が止まりません…。待遇を良くしても、なぜ若手に響かないのでしょうか?  今どきの若手とどう付き合っていけばいいのでしょうか?
インタビューシリーズ7回目となる今回は、不登校や勉強嫌いの中高生を支える「学習支援塾ビーンズ」塾長・長澤 啓 氏に取材。学習支援の現場から見えてくる、若者たちのリアルと、うまく関わるためのヒントを探ります!


長澤 啓 
1997年生まれの28歳。東京大学経済学部経営学科卒。
不登校・勉強嫌いの中学生・高校生を主な対象とし、学習指導だけでなく、生徒の心のケア、自己分析まで幅広く支援するための塾、「学習支援塾ビーンズ」で塾長を務める。また、「20代のココロとホンネ」「Z世代のトリセツ」など、労働組合向けセミナーの講師として活躍中。



若者の現状分析


――学習塾で中高生・大学生と関わる中で、若者世代は上の世代と比べどのような特徴があると感じていますか。またその特徴はどのような背景から生じているとお考えですか。

長澤氏/私の実感についてお伝えする前にまず日本の10代に関するデータを見てみましょう。中学生の約5人に1人が不登校および不登校傾向にあり過去最多(※1)、小中高生の自殺者数も過去最多水準(※2)、という事実があります。

「あなたたち(ビーンズ)は普段から不登校などに悩む繊細な10代と接している。だから、若者世代は活力が弱まっているという主張はあなたたちのバイアスなのでは?」という指摘もあります。ですが、上記のデータから、若者世代全体として元気でなくなってきていることは明らかであり、メンタル面で地盤沈下していることは否定できないと考えています。

もちろん、この問題は若者自身だけに原因があるとは考えていません。問題の原因は、社会や周囲の人間との共犯関係によるものであると捉えるのが適切だと考えています。若者世代はエネルギーの使い方が上の世代と違うんですね。上の世代の人たちは、目標達成に向けて突き進むことに集中してエネルギーを使える方が多いように感じます。

ただ、若者世代の場合は、他者の視線にアンテナを張り、他者の心へ配慮することに、目標達成に注ぐのと同じくらいのエネルギーを注いでいる。私はこれを彼らの「優しさ」と捉えています。「優しさ」が過ぎると他人におびえ、離職や本人の心の問題につながってしまうのですが、彼らの優しさに裏打ちされたポテンシャルはとても高いです。

彼らがそのような繊細なメンタルを持つ背景には、
私たちが三大トラウマと呼ぶ「親トラウマ」「親以外の大人トラウマ」「同世代トラウマ」があります。
まず、10代から20代前半の子ども・若者が元気に育っていくためには、

  1. 学校や習い事、近所で出会う親以外の大人

  2. 同世代との関係

がとても重要であると考えています(ビーンズでは「3つの関係領域」と呼んでいます)。
もちろん、それぞれの関係領域の中で、嫌な経験ってどうしても発生しますよね。その際、ある1つの関係領域で生じた嫌な経験を他の関係領域で解消することが重要です。

しかし、今は親との関係で生じた嫌な経験を「親以外の大人」との関係で解消しようにも、地域コミュニティが瓦解しているため、そもそも「近所のおじちゃんやおばちゃん」的な存在はいないことが多いですし、公立学校の教師の6割以上が3年以内の離職を検討している(※3)など、学校の先生も余裕がないことが多いです。同世代に対しても「比較対象」としてしか見られない子ども・若者が増えているようです。

そのため、ある1つの関係領域で生じた嫌な経験を他の2つの関係領域で解消しにくくなっている構造があるのです。そして、それぞれの関係領域で生じた嫌な経験がそのまま「トラウマ」として残り、メンタルが繊細になり、現在の行動の足を引っ張ってしまいます

三大トラウマにとらわれると自分のことを肯定する機会を獲得しそこなうため「自分のことが嫌い」になり、自分のことを肯定する機会を与えてくれなかった「環境(他人や社会)のことも嫌い(信頼できない)」というマインドにどうしてもなってしまいます。

結果、他者からの反応や評価を引き起こす可能性があるため自分の本音を絶対に見せませんし、他人と深く関わろうとしない行動ばかりとります。そうして自分を隠し他者を遠ざけておけば嫌いな自分を直視せずに済むからです。この状態を、ビーンズでは「自己閉塞」と呼んでいます。

「そんな子ども・若者たちばかりではない。元気な子ども・若者もいる」とお考えの人もいると思います。しかし、私たち大人から元気そうに見える子ども・若者は、本当に元気なのか、ということをよくよく観察してみる必要があります。他人の目に配慮する意識を持っているからこそ、賢い子ども・若者は大人的な正解に沿おうとします。表面的には元気で利発な若者を見て、大人たちは勘違いするのですが、彼らの本音は「明るく元気に振る舞わないと大人たちは認めてくれないでしょ」であることも多いです。

飲み会に来て明るくお酒を飲んでいても「実はしんどかった」と後から時間差で疲れが勝っていく。ミドル層の人たちは「自分たちだってしんどかったよ」と言うかもしれませんが、なんだかんだ頑張れたのが上の世代で、頑張れない、消化できないのが下の世代なのだと思います。

※1 「不登校に関する子どもと保護者向けの実態調査」(カタリバ 2023)
※2 「令和5年中における自殺の状況」(厚生労働省、警察庁 2024)
※3  先生の6割が「3年以内の離職・転職」を考えている…教員不足で現場に起きているひずみの数々.東京新聞.2024-4-10,
https://www.tokyo-np.co.jp/article/320477(参照2024.10.26)


コロナ禍がもたらした青春経験の断絶とその影響

長澤氏/今の若者世代はさらに特殊な背景があって、中・高・大の青春時代をコロナ禍に見舞われています。コロナ禍はまさに人間関係砂漠です。部活もできない、授業はオンラインで受けて答えを埋めるだけ、という環境でした。

――いわば青春氷河期ですね。

長澤氏/その通りです。コロナ禍だったため、外部とのアクセスが制限され、ひたすらオンライン生活を送っていたのです。中学時代なのか高校時代なのか大学時代なのかは別にして、そんな苦しい青春氷河期を3年間経験している世代が今からあと5年連続で社会に出続けてくる。

さらに8年後からは、5人に1人が不登校および不登校傾向という世代の若者たちが大学新卒で入社してきます。コロナ世代が終わっても、不登校当たり前世代が続々とやってくるのですから、彼らを受け入れる会社側も変化する必要があるのではないでしょうか。


社会はなぜ閉塞感から脱却できないのか


――どうして自己閉塞が生じるのでしょうか。

長澤氏/自己閉塞の前提としてお伝えしたいのが、ビジネス領域のゲームルールとして「自分と他人を道具化する」というものがあるということです。経済市場でシェアを奪い、より多くの成果・利益を出すという目的を果たすためには、相手も自分も道具扱いしたほうがうまくいく。むしろそうしないとうまく機能しない側面があるのも事実です。互いに欲しい便益があるから一緒にやれるわけですから。その意味において、私は道具化が全て悪いとは思いません。ある程度致し方ないと考えています。

問題なのは、このビジネス領域に限定されていたはずのゲームルールが生活領域を侵し始めていることです。ビジネス領域のゲームルールに慣れ親しんだ人々が、生活領域においてもそのような価値判断を下しがちというのが現代ではないでしょうか。

ビジネスと比べて地域コミュニティや余暇の優先順位が後回しになり、道具的世界観が道具以外の人間の関わりをどんどん侵食していくんですね。そうして自分も他人も道具扱いしてしまう「自己閉塞人」が増殖し、企業や学校を運営しているのだと考えています。
その意味においては、「道具化」にからめ捕られて「自己閉塞状態」から逃れられなくなっているのは若者だけでなく、今を生きる全世代が抱えている苦しみであると言えます。

では自己閉塞人はどのような思考回路を持ち、どのような行動原理に基づいているのか、という話を次にしたいと思います。

人間にとっていちばんしんどいのは、他人から捨てられ、人間関係の外に放り出されることです。自己閉塞人は、いわば「使いものにならない道具」として無視、切り捨て、廃棄されないようどう立ち振る舞うかに、全ての行動を最適化していきがちです。

典型的なものの1つとしては、「道具である自分」が捨てられないために、最初から他者の認識の外にいようとする「埋没」行為です。
目立たないようにすれば期待されず、捨てられることもないので、人とのつながりの場にも行かない。不登校や引きこもりの子どもはまさにこれです。
 
もう1つは、道具として捨てられないようにするために、「有用な道具」としての「使用サイクル」をグルグル回るという「使用価値向上」の行為があります。例えば東大に行けば捨てられずに済むのではないか。そして東大へ行ったら行ったで大学4年で司法試験に合格して、卒業後は弁護士になって……みたいなことが延々と続いていく。そうやって「捨てられることへの恐怖」を覚えながら、「有用な道具」としての使用サイクルをグルグル回り続ける。これはどう考えたってしんどい行為ですよね。

「自分を道具化する」ことの裏返しとして、「他人を道具扱いする」というものもあります。これは簡単に言うと「支配」という行為です。相手に「ずっと使用サイクルで回ってください、自分にとってパーフェクトな道具でいてください」と、他人に完璧さを求めてしまうのです。そのため、「自分の想像する道具としての究極的な理想」と現実の相手とのささいな違いが許せない。だから急に「怒り」に着火することがあります。

また、自分が捨てられるくらいならその前に自ら他人を捨ててしまえという「恥回避」という行為もあります。例えば「私がここにいると皆さんのご迷惑になるので退職します」と、自分から人間関係の外に出ていくんですね。


――上の世代の人たちは、道具の世界観でうまくやれていたということですか。

長澤氏/組織と個人の関係は、組織が個人に「報酬を与える」「成果を出すために支援する」「使命を与える」で成り立っており、組織が個人に求めるのは成果だけです。

個人側の視点に立つと、自分の努力・責任と、組織が提供してくれる支援・サポートの合わせ技によって、成果を出すことができる。成果を出せれば自分を好きになれるし、報酬(給与だけでなく、評価や愛情も含みます)を得られることで組織から愛されているという実感が持て、組織を好きになり、さらに努力と責任を負えるようになる。

道具としての自分が報われるというサイクルが回っていたし、自分が道具化されない人間関係も分厚かった。社会全体もなんだかんだで活気があったので、三大トラウマ(「親トラウマ」「親以外の大人トラウマ」「同世代トラウマ」)が発生しづらく、みんなと一緒にスクラムを組んでやってこられたのです。

三大トラウマにむしばまれた今の若い世代は、初めから「自分が嫌い」かつ「環境も嫌い」という状態なのです。まだ自分自身の「道具としての有用性」に全く自信を持てていない。この状態のままでいきなり努力や責任を負って期待に応えるのは難しいんですね。なのに彼らには難しすぎる使命を渡してしまっているし、彼らには支援が足りなすぎるし、報酬も足りていない……というサイクルが回ってしまっています。

今、企業は新卒の初任給を引き上げていますが、「道具としての有用性を感じ、報われる」というサイクルが確立されないまま報酬だけ上げても、そのギャップにますます苦しむだけです。

自己閉塞感や報われない道具の世界観の中で生きている彼らに大人が歩み寄り、「簡単な仕事だよ」「こういう振る舞い方があるよ」「いざとなったら守ってあげるから大丈夫だよ」「あなたはここで役立つんですよ」「あなたの人生にも役立ちますよ」という理屈をつくってあげて、彼らの世界観を相対化していくことが必要だと思います。


自己開放へのジャンプアップをどう実現するか


――自己閉塞している若者がその状態から解き放たれるにはある種の飛躍が必要だと思うのですが、いかがでしょうか。

長澤氏/若者が自らを開放するには、いずれ本人たちにもどこかで頑張ってもらわなければいけません。彼らが「彼らの世界観でギリギリ受け入れられる、道具化されていない世界」を少し知った後に、彼らが受け止められる範囲で「正論というワクチン」を接種する必要があります。彼らは即時的な見返りを求めることも多いですが、「そんなものはないし、求めてばかりでいるとむしろどんどんしんどくなっていくよ」と、お説教ベースで接してはいけません。むしろ「一緒に頑張ろうか」と寄り添う。道具化以外の世界観をちょっとでも知った後なら、行動変容していける可能性は高いと思います。


若者世代とどう向き合うか


――上の世代が若者世代にどう関わればいいのか、そのコツをお聞かせください。

長澤氏/草の根的な対処法としては、彼らがしんどくなるポイントを理解すること。すぐにできる対処法は、「やらされ感」を取り除き「逃げ道」をたくさん用意してあげることです。彼らは「強制された」感を非常に嫌います。「あなたには私との相談のうえでやらないこともできるし、強制ではないし、あなたの意見も聞かせてほしい」と、繰り返し小まめに働きかけることが必要です。

これは全世代共通かもしれませんが、意義への納得感を大事にするので、「なぜこれをやらなければならないのか」「なぜ今やらなければならないのか」「あなたにやってもらいたい理由」「やってほしい具体的な仕事内容」を丁寧に説明し、納得してもらい、そのうえで「何か意見があったら言ってね」と、恐らく皆さんが想像する5倍以上の手間や時間をかけてナビゲートします。

仕事の意義や実施のタイミングを一方的に説明すると、彼らはその正論に一応納得はするものの、「逃げ道がない」という感覚を持ってしまいます。ちょっとした仕事を渡すときでも、「対話しよう」「あなたに拒否権があるよ」「大丈夫?」と何度も何度も聞くことは、明日からでもできるのではないかと思います。

ただこれは簡単なようで、実は非常に難しい。あとになって彼らから不満や憤りが噴き上がってくることもあるので、細心の注意を払わねばなりません。特にプライドが高い人や我が強い人はそうなりがちです。彼ら自身が「やりたい」と言ったことを彼らのペースでやらせたはずなのに、後から「今その瞬間にやれというような圧を感じた」「助けてくれなかった」「孤独にさせられた」などと言われてしまうこともあるんです。

――「やらされ感」をなくすことを大前提として、何度もチェックポイントを確認しながらナビゲートしていくということですね。

長澤氏/ そのための重要なチェックポイントは2つあります。1つは「僕はこれが大事だと思っているし、あなたもそう思っているみたいだね。この話以外に何かあなたに優先順位はある?」という優先順位のヒアリングです。もう1つは「僕にも何か手伝えることはある?」「僕はこれを手伝おうと思うんだけど、何かあるかな」というお手伝いの確認です。

優先順位のヒアリングはタイミングの納得感を持たせるためであり、お手伝いの確認は「孤独感」の中の共感不足、助けられ感不足をなくすため。「やらされ感」と「孤独感」が掛け合わさった時、彼らの状態は最悪になるからです。

――満足の創出ではなく痛みの除去を、ということですね。その他に若者世代に対してできることはありますか。

長澤氏/若手が人慣れするための場を提供することも必要だと考えています。人慣れするための場を成立させるには、以下6つの条件があります。

  1. 関係が多で疎であること。2、3人の少人数で深い関係を築くのではなく、多くの人と浅い関係をつくることができる場を設けます。一人一人との関係が薄ければ、誰か1人との間で問題が生じても、他の人との関係が維持されるため、本人のダメージが最小化されます。

  2. やってみて楽しい作業を提供すること。

  3. 大義名分があること。「あなただからできる仕事です」「あなたのキャリアにこう役立ちます」と、道具としての彼らに価値があることを伝えてあげます。「ただ楽しいだけの空間」となると、「価値を発揮していない自分」への嫌悪感を発生させてしまうからです。

  4. 簡単にできる仕事があること。まだスキルがないかもしれない若手に、簡単にやりとげられる仕事の機会を提供してあげます。

  5. 自己開放の促進者がいること。促進者のイメージはスナックのママ。中堅やベテランが愛のあるファシリテーターとして、若手を見守り、つまずいていれば優しく声をかけます。

  6. 平等であること。若手は権力関係を嫌がる傾向があります。指揮命令系統が発揮されるようなコミュニケーションは取らない、その手の話は持ち込まないことが重要です。

この6条件を全て満たすのはけっこう難しいので、いちばん大事な③は外さずに、例えば③と④だけ、①③⑥だけ、などでもいいと思います。条件をより多く満たす場をつくって、若手の人慣れを後押ししていくことが重要だと思います。

――若手との関わり方に悩む組合役員へエールをお願いします。

長澤氏/組合役員の皆さまに研修を実施させていただく中で、「組合活動に若手が参加してくれない… 」という声を頻繁に頂戴します。

確かに、自己閉塞性の高い若手にとって組合の活動に参加することはハードルが高いでしょう。ただ、そんな若手にこそ組合が必要だと断言できるのもまた事実。さらに、若手が組合活動に参加しやすくなるようなスモールステップも確実に存在するんです。これから、組合だからこそできる若手へのサポートを一緒に探求してまいりましょう!

――今回は貴重なお話を伺いました。誠にありがとうございました。

最後に長澤さんとビーンズの代表 塚﨑 康弘さん(写真:中央右)、インタビュアーのj.unionメンバー竹内 進(写真:右)、横田 直也(写真:左)で記念撮影。

長澤さん、貴重なお話をありがとうございました。
若者たちのリアルな姿や、彼らとの向き合い方について、たくさんの気づきをいただきました!


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