【No.14】職場の自主管理力が高い組織(自律的職場集団)は成果をもたらす
j.union社の“WEBメディア―勉強note「働く×マナビバ」”開設にあたり、これから趣を新たにして、私の遺書として上梓した西尾力(2023)『「我々は」から「私は」の時代へ―個別的労使関係での分権的組合活動が生み出す新たな労使関係』日本評論社の内容紹介を兼ねて、シリーズにて「個別的労使関係での分権的組合活動の理論と手法」を綴っていきます。
※前回の記事はこちらから
これまで本稿で紹介してきたA労働組合での調査研究では、組合員アンケート調査の設問から、カテゴリーごとに合成した変数(合成に当たっては信頼分析にて問題ないことを確認済み)を使い、【個別労使交渉・協議力】が高い組合員は、【個別的労使関係 上司との人間関係】【目標管理・人事考課制度満足度】【二重帰属満足度】が高く、その結果、職場で高い【労働成果】をあげていること。また、【職場の自主管理度】が高いと、【職場のチームワーク】【エンゲージメント】【キャリア自律度】が高まり、その結果、職場で高い【労働成果】をあげていることを明らかにしてきました(先月号[No.13]図表14と図表19)。
下記の図表20は、先月号の図表14と19を合体させ、【職場の自主管理度】と【個別労使交渉・協議力】を配列した結果です。「↔」は、【個別労使交渉・協議力】と【職場の自主管理度】が強い相関関係(0.65***)にあることを示しています。そして、【個別労使交渉・協議力】と【職場の自主管理度】を発揮させることが、【二重帰属満足度】を高め、【労働成果】を高めていくことが示されています。
図表20 個別労使交渉・協議力と職場の自主管理度からのパス解析図
なお、図表20内の【組合活動満足度】と【組合との心理的契約】という合成変数は、つぎのような設問を合成したものです。
図表21【組合活動満足度】(α=0.921)
図表22 【組合との心理的契約度】(α=0.951)
ただし、組合員と【組合との心理的契約】の締結にあたって、注意しておくべきことがあります。それを示しているのが図表23です。図表内に示した5つの合成変数を作成し、【組合役員との信頼関係度】から、どのような経路で【組合に対する総合満足度(100点満点)】に結び付くのか探査したものです。
図表23 組合役員との信頼関係度からのパス解析図
【組合役員との信頼関係度】を高めることが、【組合に対する総合満足度】を高めることになることが示されていますが、それと共に、注目すべき下記2点が明らかとなっています。
1つ目は、【組合役員との信頼関係度】【組合組織運営への信頼】【組合との心理的契約】から【組合に対する総合満足度】へは正の影響を及ぼしていますが、【組合活動参加度】と【組合に対する総合満足度】との間は標準化係数が0.00で関係性がみられない(矢印を引けない)のです。これを具体的に述べると、職場集会や組合イベントへの参加度やその場での発言度が高まったとしても、組合に対する評価(満足度)を高めることには結びつかないのです。
2つ目は、【組合との心理的契約】から【組合活動参加度】へとは負の影響(赤線囲み:-0.23**)を及ぼしており、【組合との心理的契約】が高まると、【組合活動参加度】は低くなることを示しています。このことが示している意味は、春闘等で労働組合がどんなに頑張っても、【組合に対する総合満足度】は高められるが、組合員の【組合活動参加度】は高められない、むしろ低下させるだけ、と解釈されます。このような構造になってしまったのは、春闘に代表される組合活動が組合役員による請負代行システムであったため、組合員は依存的体質を身に着けてしまったからだ、といえましょう。【組合との心理的契約】の更新・再締結にあたって、気をつけなければならない事柄です。
以上の分析結果をもとに考察すると、職場自主管理活動度の高い職場は、労使に成果をもたらす、といえるでしょう。人的資源管理では、社員の自主性を発揮させた職場の自律的な活動を、リーダーシップ論やモチベーション論から、その必要性を語るものの、その活動の主催者には管理職を割り当てるために、どうしてもその職場運営は業務命令的なものとなって、職場の雰囲気は権威主義的(指示命令的)な重たさに包まれています。したがって、働き方改革での時間外労働時間の短縮は、労働の質的高まりを伴ったものではなく(職場の自主管理度が高まったものではなく)、単純に喜んではいられません。
しかし、労働組合活動としての職場での自主管理活動は、あくまで労働者の自主性・自律性であるために、そのような権威主義的(指示命令的)な空気は薄れます。図表24に示した【不本意な目標管理制度】とは、「目標管理が上司からの押し付け」と「期末面接がノルマ・業績管理」の設問の合成変数を平均値の上下(高低)別にカテゴライズしたもので、職場の自主管理度が低いと思う人たちは不本意な目標管理制度だと感じ、職場の自主管理度が高いと思う人たちは、不本意な目標管理制度だとは思っていないことを現しています。
図表24 職場自主管理活動と不本意な目標管理制度の高低別のクロス集計
しかも、本稿で述べる自主管理活動は、過去に見られた経営権への抵抗でも蚕食でもなく、労使共に許容されるうる職場の労使関係管理となっており、経営側からも実施が期待されるものだといえます。そのことは、次節のメール・インタビュー調査からも明らかです。
本調査研究では、組合役員、管理職、組合員の3つのアンケートにて、目標管理・人事考課制度の各面談が個別労使交渉・協議になっている可能性や、職場での自主管理活動が展開されている可能性のある回答をリストアップし、かつ再質問を認めるとして氏名とメールアドレスを記入した回答者に、コロナ禍の中でもあり、メール・インタビューを行いました。
組合役員アンケート(有効回答1,664人)においては、被評価者セミナー後に、自身を含めた同僚の言動の変化について記述し、かつ再質問を認めた回答者の中から20人をリストアップしました。同じく、管理職アンケート(有効回答219人)からは、部下の言動の変化を記述した4人をリストアップしました。組合員アンケート(有効回答394人)からは、「職場でのチームワーク度」と「職場の自主管理度」が共に高いカテゴリーを選択し、かつ再質問を認めた38人をリストアップし、メール・インタビューを実施しました。
紙面の都合上、本稿でDさんの事例(西尾2023:148-154)の紹介に留めます。詳細は、西尾(2023:第7章)をご覧ください。
Dさんは、男性、43歳、勤続19年、総合職、会社役職は「主査」役にあり、Dさんのチームには彼の他に社員2人、派遣1人、協力社員4人。分会役員でもあり、被考課者訓練(被評価者セミナー)受講経験あり、という方です。
以下、Dさんへの質問と回答を紹介します。
Dさんは、「被評価者セミナーが役立った理由、応用できた理由」について
「週単位でしていること、その内容」については、
「月単位でしていること、その内容」については、
「4半期単位にしていること、その内容」については、
「半年単位でしていること、その内容」については、
「年単位でしていること、その内容」については、
―と回答しています。
さらに、セミナーはその後も役立っているのか尋ねると、
―との主旨の回答となりました。
「週単位でしていること、その内容」に対して、「アウトプットの習慣と、それが上司、職場にとってどう映るか(上司の、担当の、部門の目標にどう貢献したか)の視点」との回答だったので、それは自身のことに限定してのことか、それとも職場全体でも当てはまることかを尋ねたところ、
―との主旨の回答となりました。
また、「月単位でしていること、その内容」の質問に対しての、「上方向へのアウトプット(上司、部門長)はもちろん、メンバーへのフィードバック(評価)を通じてチームワーク、モチベーションの向上に繋げている」との回答も、自身のことに限定してのことか、職場全体でも当てはまることか尋ねたところ、
―との主旨の返答となりました。
さらに、「4半期単位にしていること、その内容」について、「部門全体に及ぼしたアクションの振り返り(自分、自担当の役割を再認識するとともに、役割を全う出来たかのPDCAをおこなう)」との回答も、自身のことか、職場全体でのことか、尋ねてみました。
―との主旨の返答になりました。
「年単位でしていること、その内容」については、「目標に対する定量的、定性的な成果の確認。特に定量に関してはメンバーや部門と認識を合わせておく事が重要(独りよがりな数字に意味はない)」との回答でしたので、同じく自身のことか、職場全体のことか、尋ねたところ、
―との主旨の回答が寄せられた。
さらにその後、「セミナーはその後も役立っているのか」を尋ねた回答に、「目標設定やフィードバックの機会に、職場で、社員同士で話すなどして、各人の目標や役割が明確になり、それに向けたチャレンジがしやすくなった」との返答内容でしたので、それは、「いつごろの、どのような職場で、どのようなメンバーとの間で、どのような日時、場所、機会に話し合われたのか、どのくらいの期間それを継続されたのか、最初の参加者の反応はどうだったのか、抵抗者、消極的な人はいなかったか、いたときどのように説得したのか、上長にはその会議開催をどのように伝え(説得し)たのか、そのときの反応などについてお話を聞かせてください」と掘り下げて尋ねてみました。
―との回答となり、役付の組合リーダーによる職場での自主管理活動の展開を述べるものでした。
管理職層末端の組合員層は、会社で言えば中堅どころで、職場をまとめリードする立場にある人たちです。この層が組合にシンパシーを感じていたり、Dさんのように組合役員を担っていたりすると、労働組合の組織力・活動力に大きく影響を及ぼします。
参考文献
西尾力(2023)『「我々は」から「私は」の時代へ―個別的労使関係での分権的組合活動が生み出す新たな労使関係』日本評論社