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【No.13】個別労使交渉・協議力(発言力)が発揮されると労働成果を高める

j.union社の“WEBメディア―勉強note「働く×マナビバ」”開設にあたり、これから趣を新たにして、私の遺書として上梓した西尾力(2023)『「我々は」から「私は」の時代へ―個別的労使関係での分権的組合活動が生み出す新たな労使関係』日本評論社の内容紹介を兼ねて、シリーズにて「個別的労使関係での分権的組合活動の理論と手法」を綴っていきます。
※前回の記事はこちらから


月号(No.12)にて、労組主催の被評価者セミナー(被考課者訓練)によって、組合員一人ひとりの個別労使交渉・協議力(発言力)や職場での自主管理力が醸成されることを示しました。そこで、今月号においては、その個別労使交渉・協議力(発言力)や職場での自主管理力が、企業内にて何をもたらしているのかを確認していくことにします。
 
そこで、目標管理・人事考課制度に対する面接の【事前準備】(先月号の図表1)から【期首面接】(先月号の図表2)、【期中上司コミュニケーション】(先月号の図表3)、【中間面接】(先月号の図表4)、【期末面接】(先月号の図表5)、【フィードバック面接】(先月号の図表6)まで面接の活用度を問う全設問を合成して【個別労使交渉・協議力】(図表9)という変数を作成しました。

図表9 【個別労使交渉・協議力】(α=0.939)

出所:西尾(2023:104)

今月号も、先月号と同様に回答結果をわかりやすくするために、5件尺度法の回答を、「5.とてもそう思う」と「4.まあまあそう思う」を加算して「活用派」や「肯定派」に、「3.どちらともいえない」をそのままにして、「2.あまりそう思わない」と「1.全くそう思わない」を加算して「未活用派」や「否定派」にしてその割合を計算し、設問に対する回答傾向を表示しています。
 
図表10~13に示した会社および組合に対する評価を問う設問を合成した変数と【個別労使交渉・協議力】(図表9)の関係性を示したのが図表14【個別労使交渉・協議力から労働成果への最適なパス解析図】です。

図表10 【目標管理・人事考課制度満足度】(α=0.922)

出所:西尾(2023:104)

図表11 【個別的労使関係 上司との関係】(α=0.898)

出所:西尾(2023:110)

図表12 【二重帰属満足度】

出所:西尾(2023:96)

図表13 【労働成果】(α=0.903)

出所:西尾(2023:106)

図表14 個別労使交渉・協議力から労働成果への最適なパス解析図


図表14内の変数間の「→」は因果関係を示し、その変数間の矢印に添う値は標準化係数(因果係数)で、-1~+1までの範囲で関係性を示すもので、すべて有意水準(p<0.05%)の値になっています。変数の右肩上の小さな数字(決定係数)の見方は、例えば【個別的労使関係上司との関係】の右肩の数値は、【個別労使交渉・協議力】から影響を受ける部分が0.67を占めていることを現しており、その他の変数から影響を受ける誤差の部分が1.00-0.67=0.33であることを示すものです。
 
 
たがって、図表14【個別労使交渉・協議力から労働成果への最適なパス解析図】は、【個別労使交渉・協議力】が発揮されると、【個別的労使関係 上司との人間関係】と【目標管理・人事考課制度満足度】を高め、そして労働組合と会社の両者への【二重帰属満足度】を高めて、【労働成果】を高めていく関係性になっていることを示しています。
 
今日の労働組合にとって、目標管理・人事考課制度を逆活用して、組合員・労働者が個々人の個別労使交渉・協議力(発言力)を高めていく取り組みが何より緊要な課題であることが示されています。
 
 
らに、図表15に示したQ6-1からQ6-6の設問を合成した変数【職場の自主管理度】が発揮されると、図表16【職場チームワーク】と図表17【エンゲージメント】、図表18【キャリア自律度】を高めて、図表13【労働成果】の向上に結びつくことが、図表19【職場の自主管理から労働成果へのパス解析図】によって明らかとなっています。
 
図表15 【職場の自主管理度】(α=0.917)

出所:西尾(2023:111)

図表16 【職場チームワーク度】(α=0.864)

出所:西尾(2023:103)

図表17 【エンゲージメント】(α=0.894)

出所:西尾(2023:106)

図表18 【キャリア自律度】(α=0.885)

出所:西尾(2023:112)

図表19 職場の自主管理から労働成果へのパス解析図

出所:西尾(2023:136)

上の分析結果から、目標管理・人事考課制度を逆活用して、個別労使交渉・協議力(発言力)を発揮するという自律・当事者型組合活動は、二重帰属満足度を高めて、組合離れ(労組の衰退・機能不全)を防止するだけでなく、低下したわが国の労働生産性を高める取り組みであり、何より緊要な課題であることが明らかになったといえましょう。
 
また、職場懇談会等による職場の自主管理度を高めると、職場のチームワークやエンゲージメント、キャリア自律度を高め、その結果、労働成果を向上させていくことが明らかとなりました。
 
よって、本稿の結論は、次のようにまとめられます。
 
賃金・労働条件の個人処遇化は、労使関係においてマイナス要因だけではありません。目標管理・人事考課制度は、仕事が労働者主導でおこなわれていくようになることも意味するので、被評価者セミナー(被考課者訓練)および目標管理・人事考課制度が呼び覚ます思想は、“労働者は企業の歯車ではなく、企業の主体であり、現場の労働者が企業経営に参画できるのだ”という自覚をもたらすものです。
 
また、日本の労働者が人事考課や査定を認めることは、企業側が労働者の管理や組織運営のための仕組みとして整備しただけではなく、労働者の側もそれを拠り所として権利を主張する仕組みに読み替えていくためのもので、労働者が企業内部(職場)で、経営参加していくためのものでもあり、目標管理・人事考課制度の各面談を個別労使交渉・協議に替え、不履行となった会社との心理的契約の更新を図るという、企業別組合ならでの規制力を作り出しています。
 
これまで、労働組合は、個別的労使関係は集団的労使関係と対立すると忌避してきましたが、本調査研究によって、個別的労使関係と集団的労使関係は両立(補完的に機能)するだけでなく、個別労使交渉・協議力(発言力)の高い組合員ほど、職場で高い労働成果を上げること、さらに、目標管理・人事考課制度の満足度を媒介して、労働組合と企業への二重帰属満足度も高くなることが明らかとなりました。


参考文献

西尾力(2023)『「我々は」から「私は」の時代へ―個別的労使関係での分権的組合活動が生み出す新たな労使関係』日本評論社